寒い星の二人(6)
父フェルドナン・アーフは腰に剣をさげている。武門のアーフ家の長としての儀礼だ。ただし父のさげているのは真剣である。彼は好んで実用品を帯剣していた。
(どうして父上が?)
偶然か、テネルメアが招いたか。
(どちらにせよ面倒な相手と渡りあわないといけないか)
アルディウスは難しいことになったと感じていた。
「多少は自覚を身に着けてきたか」
父親に指摘される。
「認められたいですからね」
「その儀礼用の小剣がお前の意思表示というなら考えんこともないな」
「甲斐があったと思っておきます」
(危なかったな)
彼自身は腰に剣を佩くのは古臭いと思っている。ただ、箔をつけるには分かりやすい目印になるので、議長相手の交渉には便利だと思って着けてきた。それが偶然功を奏したという現状。
「テネルメア様」
父が鼻で促してきたので本題に入る。
「今日はお時間を作っていただき感謝します。事前にお話ししておいた者を連れてまいりました」
「ご苦労。紹介してもらえるかな?」
「はい。彼らがハルゼトから合流した志持つ同族たちです」
スレイオスとベハルタムをそれぞれ紹介する。議長はご機嫌な様子に見えるが腹の底までは読めない。
「ただいま紹介にあずかりましたスレイオスです」
金眼の男は自信満々に前に出る。
「まずは受け入れていただき感謝いたします、ポージフ議長」
「うむ。長の雌伏の時を耐えてくれて感謝する。貴公らのもたらした情報は我らにとって有益であった。十分に報いたいと考えておる」
「当然のことですよ。アゼルナンの将来を憂う気持ちはどこに在ろうと同じだと考えております」
舌の良く回る男だ。フォローは不要だろう。
「希望があるなら聞くぞ?」
「さして大きな願いなどございませんよ。私は自分の能力が民族の未来に貢献できれば満足なのです」
「殊勝なことを言う」
上手に歓心を買う。社会性の高さは兄弟星の風土から来るものかもしれない。
「よろしければ今後は本国の軍備を充実させられる環境で努めたいと考えております。この紛争は我らにとっては一歩目に過ぎません。勝利こそに意味があるのです」
スレイオスは吟ずるように主張する。
「勤勉じゃの。よろしい。そのほうの希望に沿おう」
「ありがたき幸せ」
優雅に礼譲する。
「では、そなたにも
「それは噂に聞く宝箱ですか?」
「そうよのう。なんと感じるかは人しだい。価値の分からぬ者にはがらくたにしか思えぬか」
テネルメアは韜晦する。
(件の彼女と会わせますか。議長殿は本人の技能で選んでいるのかも?)
アルディウスは会わせてもらっていない。
(父は知っているふうだった。この先、要になるのは間違いなさそうなのに、僕には会わせられないと?)
記憶を探る。
たしか「野心を増長させる」と言っていた。その時も見抜かれていると背筋が凍ったものだ。
「ご期待に沿えるよう努力しましょう」
スレイオスの笑みが深くなる。
「私が彼女に見初められれば宝箱を宝物庫に変えられるかもしれませんからね」
「自信家じゃのう。が、そういう男は嫌いではない」
「ともにアゼルナンの将来を創る者として選んでくださったアルディウス殿の期待にも応えなくてはなりませんので」
気負けもせず耳も尾も立てたまま。
「
「あの娘ですか」
わずかながら耳が寝る。声音も少し低くなって、思うところがあると匂わせた。
「優秀なのは認めます。ですが、我らを見下す傾向が見られました」
金眼に憎悪の感情が灯る。
「見下すか? そうは見えなかったぞ。はぐれ者ではあるが同族を身近に置いておったが」
「動画の件ですか。あれは上手にあしらって番犬替わりに使っているのですよ。アゼルナンを道具にしか見ていません」
「ほほう?」
テネルメアの瞳が愉快そうに細まる。
「自らの技術を証明する駒の一つとしているか? それにしては妙よのう。ただの駒に命を預けぬじゃろう?」
「む?」
「アルディウス、たしか貴公の弟が娘をともなって我が国に潜伏していると聞いているが」
(漏れていましたか)
心の中で舌打ちをする。
(察したのはエルデニアンだけかとも思いましたけど、勘の良い者ならブレアリウスとの会話から類推できたのかもしれませんね)
軍にもテネルメアの手が入っていると分かる。
「さすが議長殿、耳がお早い」
褒めそやして誤魔化す。
「どうにも難しい、それも我が家にとって因縁浅からぬ相手。結果を出してからのご報告をと思っていたのですが、お心をわずらわせていましたか?」
「そうよの。そなたがあれをどう使おうとしているのか楽しみながら眺めておったところじゃ」
「お人が悪い」
ヒゲがちりちりと震える。確認できないが視線が怖ろしい。エルデニアンから聞き取りしていた事実をフェルドナンにも報告していなかったのだ。
(評価された得点をここで失点として吐きださされてしまいました)
内心で苦汁がにじむが、暴露されてしまったものは仕方がない。
「本当か、アルディウス殿?」
スレイオスの口調にも苛立ちが混じっている。
「まあね」
「それならば確実に捕縛するのをお勧めする。できなければあの青い機体ごと撃破してしまえばいい」
「待て」
それまで静観していた父が制止したのにアルディウスは驚いた。
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