陥穽の檻(7)

 突入部隊とデードリッテを収容した戦闘艇ジーレスが浮上する。これでアームドスキン隊は、奪還した管理局員を乗せてリモート運転されている噴射浮遊式装甲車エアロビークルとジーレスをラウネルズシャフトまで警護すれば作戦成功。


 贅沢をいえば車輛をジーレス内に収容できれば速度は上がるのだが、いかんせん艇内のカーゴスペースには限界がある。機甲隊員を乗せるか、エアロビークルを乗せるかという話になるのだが、最終的には軍事ステーションまで軌道エレベータを使うしかない。ビークルのままカーゴに乗りこんだほうが早い。


 軍事ステーションまで上がってしまえば、局員を星間G平和維P持軍F艦隊が保護して機動ドックメルゲンスまで護送するだけ。そこからは別口で派遣された艦隊がザザ宙区本部まで送り届けてくれるだろう。


(見事なものだ。司令官殿の頭の中にはそこまでの手順が最初から組み上げられていたということ。切れる人間というのは先の先まで事態を読み、行動に余裕を持たせているのだな)

 ブレアリウスは感心する。


 ラウネルズシャフトの攻略のときからサムエルはここまでの作戦を立てていたのだ。深謀遠慮は真似できるものではない。


(おそらくこれも計算のうち)


 ジーレスの先導をしていたレギ・ファングの位置を後方に下げる。レーダーに敵アームドスキン隊の機影が映ったと通信士ナビオペからの通信。彼らは迎撃を命じられている。


(本来伏せられていた部隊だろうな)


 デコイに釣られて接近していれば、この部隊の真ん中に放り出されていたことだろう。相当数が予想できるが友軍も二千を数える。迎撃に不足はないし、心理的な余裕もある。

 流れからしてハルゼト軍から掴まされたのは偽情報。民族統一派が絡んでいると思われるも、艦隊にはまだ四百の戦力が残されているうえ、コーネフ副司令が指揮するために温存されている。後背を脅かされる心配はないと考えられる。


(隙がない。ハルゼト軍に潜んだエージェントはGPFを躍らせたつもりで自分たちが踊らされていると気付いているころ。だが、もう手も足も出ない)

 彼にはそう思えた。


「数は三千くらい。概算だけど許して」

 ユーリンが謝ってくる。

「レーザースキャンは打ったけど、大気圏内だと感度が甘いの」

「気にしない。それはユーリンの所為じゃないから」

「ありがと。頑張って乗り越えて。ここを耐えきれれば宙区本部も増援を送ってくるはずだって司令官も言ってる」


 メイリーの言う通りで責任はない。が、彼女はパイロットの精神面を慮って言葉を選ぶ。だからこそ機器がどれだけ進化しようと通信士ナビオペの役目だけは無くならない。


「さあ、張りきりなさい。連中を足留めして逃げきったらあたしたちの勝ち」

 メイリーがリーダーらしく発破をかける。

「もちもち! ここで頑張ったら、救いだした女の子たちから命の恩人だからってモテちゃうじゃん。たまんないね」

「まあね。たぶんそんな余裕ができるのは宙区本部に帰って体調が良くなったころだと思うけど」

「おいおい、ぼくの気力を削いでどうすんの、リーダー?」

 落胆の振りをするエンリコ。

「入れ込みすぎないくらいでちょうどいいの。あんたはアウトヒッターなんだから前に出すぎない!」

「へいへい、正面はブレ君にお任せさ」


 話しているうちに敵部隊の機影が視界内に入ってくる。互いにターナミストを放出しているので電波レーダー照準は利かない。ここからが本格的な戦闘。


「よーく狙いな。運が良けりゃ当たるよ」

「総員、砲撃開始!」


 マーガレット・キーウェラ戦隊長のありがたい言葉のあとにザリ・ゴドマン副長が号令をかける。同時に無数の輝線が両軍を繋げた。


(前のめり気味だな。裏をかかれて逆上しているというところか)


 それほどの数ではないとはいえ光球が膨らむ。力場盾リフレクタも掲げずに、遮二無二突進していたアームドスキンがいたという意味。


「お、本当に当たったラッキーな奴がいるね」

 エンリコの声に苦笑が混じる。

「でも、この距離じゃ誰のビームが当たったのか判定できないから撃墜カウントされないねぇ。もったいないもったいない」

「あんたの分が当たったって申告してほしい?」

「勘弁して。嘘つきだって後ろ指差されちゃうじゃん」


(近付けないためにも、ここは控えるべきじゃない)

 ブレアリウスも両手持ちでビームランチャーを連射する。

(当たる当たらないの問題ではなく、いかにエアロビークルを安全に送り届けるかだ。重要なのはそれだけ)


 可能な限りサムエルの思惑をなぞるのが正解だと考える。今に限っては敵の撃破が本旨ではない。


(が、許してはくれんらしい)


 望遠ウインドウには多数の敵機。ボルゲンが圧倒的多数だが、中にはアルガスが混じっている。そして、その中の一機の胸には赤い曲剣のエンブレムが目立つ形であしらわれていた。


(やはりいたか、エルデニアンあに

 憎悪の視線が刺さってくるようだ。向こうもこちらを認めている。

(因縁というものは断ち切れんものらしい。望みの分だけ乗り越えろと突きつけてくる。血族にとっては不幸の使者だと認めざるを得んか)


 右手のビームランチャーを腰のラッチに戻す。ヒップガードの後ろに飛びだしてきたブレードグリップを握って抜く。力場刃を展張させるとエルデニアン機に向けて突きだした。呼吸を合わせたように相手も同じポーズを取っている。


 兄弟の駆る二機のアームドスキンは吸い寄せられて激突した。

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