異種間慕情(11)

「くるくるぅー! でも、あのアルガスって新型はまだ配備されてないじゃん」

 敵の数にテンションを上げているエンリコ。

「GPFでもゼクトロンは百ちょっとくらいしか揃ってないんだからそんなもん。それより近付いてきたんだから射線気を付けなさいよ。ケーブルシャフトに傷一つでも付けたら、あんた、数時間後には放りだされてるから」

「それは勘弁!」

「下に回ってきてるぞ」

 気付いたブレアリウスは警告をする。


 ラウネルズシャフト攻略作戦の告知後、艦隊はすぐに機動ドック『メルゲンス』を発進した。途上でブリーフィングが行われ、メイリー編隊は軍事ステーション奪取部隊に配置されている。


「やれやれ、頑張るね」

「下への連射は禁止。あそこは通常ステーションなんだから民間人だらけ。防御フィールド展張してるからってピンポイントで狙撃したら抜けるかもよ。ただでさえゼクトロンは精度あがってるんだから」

 メイリーが注意を重ねる。

「へいへい、分かってます」

「思ったより数が多い。減らさないと動けん」

「そうね、ブルー。うちで抱えて後続に奪取を任せましょ」


 軌道エレベータと名前は付いているが内部に箱は通っていない。シャフトの中心はメインケーブルで、六方向の放射状にサブケーブルがリブで繋げられている。断面は雪の結晶のよう。そのサブケーブルをレールに見立てたリニアカーゴが走って地上と各ステーションを行き来する。

 全体構造的には強度の高いものではない。いうなれば風船みたいなもの。浮力ではなく遠心力で浮いている風船にケーブルシャフトの紐が付けられている。


 地上とを繋ぐ紐であるケーブルシャフトの静止軌道位置に通常ステーションが置かれ、民間用に運用されている。民間船の発着はこの通常ステーションから行われるが、紛争状態の今はほとんど使用されていない。

 主には、同じく静止軌道にある農作物や食肉生産プラントからの搬入物を地上に送るために稼働している状態。常駐しているのは全て係員だと思っていいだろう。


 静止軌道より上に設置されているのが軍事ステーション。これは本来、通常ステーションを静止軌道に固定するカウンターウェイトであり、要は位置ずれ防止の宇宙アンカーになっている。

 静止軌道より危険な位置になるので軍事目的で使用されるのだ。万が一ケーブルが切れても通常ステーションは静止軌道上に残るが、軍事ステーションは遠心力のままに彼方へと飛んでいく。要員は脱出するしかない。


 それらの理由から通常ステーションがドーナツ型をして、中央を走るケーブルを切り離せる構造を有しているのに対して、軍事ステーションは形状に縛られない。一般には放射状に桟橋を設けたコマのような形をしている。


「ならば離れてひきつける」

 レギ・ファングが軍事ステーションの下側から離れるとゼクトロン二機も続いた。

「ということでユーリン、よろしく」

「了解よ。こっちで調整するから敵機の撃退に専念して」

「ブルー、本気でいきなさい」


 指示に合わせて一瞬で加速。敵機に対してシャフト側に機体をねじこみながら下から上に薙ぐ。ブレードは力場盾リフレクタの表面で異音を立てただけだが相手はひるんだ。ビームランチャーを向けて右肩を撃ち抜く。


「そのまま! 数だけこなすの!」

「分かった」


 撃破にこだわらず与えられるだけの損害を重ねていく。今回は倍する戦力で当たっているので不利と見れば撤退するはずだとの考えだろう。


「勝手してんじゃねえぞ!」

「うっさいわね!」


 メイリー機に噛みつく敵。勢いと気合いで攻めたてるが完全にいなされている。熱意が空回りして隙だらけなので通り抜けざまに頭部を蹴り飛ばす。棒立ちになった敵機は彼女の連射を避けきれなかった。


「うしろうしろ!」

「分かってる」


 シャフトを背にボルゲンが突っ込んでくる。機体の前で円を描くようにブレードを振って突きをはね上げる。腰だめのランチャーからのビームはリフレクタを焼いただけ。

 得意としているらしい突きを連発する相手に切っ先を絡めて外に流しながら踏みこんでいく。瞬時に手首を返して斜めに薙いで胸部装甲に斬線を刻む。構えた大口径ランチャーを中ほどで分断し、両の大腿部を切り離した。


「あらら、落ちてく」

「咄嗟に姿勢制御を切り替えられないんでしょ。ほっときなさい」

 メイリーの視線は上。

「艦隊も退いてく?」

「ロレフの旦那が頑張ってるじゃん」


 接近してきたアゼルナの防備艦隊はロレフ編隊チームを中心とした部隊の担当。アームドスキンが千二百いれば二十隻の艦隊など敵ではない。


「さてさて、こっちも片付いてきたみたいだし」

 軍事ステーションの配備戦力はそんなに多くない。

「ちょっと! アストロウォーカーがこぼれ落ちてきてるじゃない!」

「さっき後続が突入した」

「離脱してるの? 自殺行為よ」


 アストロウォーカーが飛びだしてきているが、損傷してそのまま重力に引かれて落ちていくものが混じっている。反重力端子グラビノッツを搭載していない機体では単機での大気圏降下はできない。彼が見ている間にも赤熱しはじめる落下機がいた。


「捕虜は嫌なんだってさ」

「敵対心丸出しだと先が思いやられるわね」


 メイリーはアゼルナンの徹底抗戦を不安視している。彼女とて泥沼の掃討戦は避けたいのだろう。


「艦隊が接舷する」

 前進してきた艦隊が軍事ステーションへと接近する。

「機甲部隊を投入して制御を奪取するのさ」

「カーゴもどんどん放出されてるね。取りつくアストロウォーカーは見逃してやんなさい」


 脱出する要員も、落下を怖れる機体もそのままにして、メイリー編隊は未だ抵抗する敵機を掃討していく。


 ラウネルズシャフト攻略作戦は最終段階に入っていた。

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