闘神の牙(13)
「『レギ・ファング』ね、了解」
「現在観測されている敵艦数は九十。ハルゼト軍の救援は間に合わないみたいだから少し多いけど頑張って」
「了解だ」
「どのくらいの割合で『ボルゲン』っていうアゼルナ製アームドスキンが混ざっているかまでは不明。統合データが出しだい伝えるわ」
状況からして
(全てがアームドスキンだと思っておいたほうがいい。かなり無理な生産をさせている)
建造技術もシシルから抜かれていると考えるべきかもしれないと思う。
射撃戦では双方に大きな損害は出ない。互いに
「進路指示はそのまま。
ハルゼトへの進路をふさぐ命令が出ないことからメイリーが判断する。
「当たるわよ。いける、ブルー?」
「いつも通りで構わん」
「そうよね。問題はあたしたちが新型についていけるかってこと」
懸念が返ってきた。
「あれ、もしかしてわたし、バランス狂わせちゃった?」
「少しな。すぐに慣れる。二人もプロだ」
「よかった。でもレギ・ファングの技術フィードバック作業、頑張るね」
ブレアリウスにはデードリッテの処理能力がどれほどかは正直解りかねる。無理しているのか楽しんでいるのかも測れない。「つらくない程度にな」とだけ告げた。
(焦るな。無闇に飛びこんでも結果は出せない。ここは死に場所ではない)
自分に言い聞かせる。
戦列を維持したまま両軍は衝突した。
灰色のボルゲンが視界を圧するように迫る。大上段から振りかぶった光刃をを落としてきた。怖れもせず飛びこんだ彼は胴を薙ぎ払いながらすり抜けた。
「きゃ!」
「怖いか?」
背後で爆炎が膨れあがる。
「うん、怖い。でも我慢する」
「目を瞑っていろ」
「ううん、それはダメ。目を逸らしちゃいけないと思うから」
彼女は自分の仕事を直視するというのだろう。ただ、その誠実さが心を傷付けないか不安にもなる。
(結局負担をかけている。俺の事情に巻きこんでしまった。どう償えばいいかは分からない。今は守ることだけ考えよう)
このレギ・ファングになら難しくない。
(よく動く。パワー負けも僅かたりとて感じない)
力場同士が噛みあって紫色のスパークが散る。斬り結んだ衝撃がコクピットを揺らす。質量では負けているはずなのに弾かれたりしない。
軽くペダルを踏んだだけで押しこんでいける。動揺が相手の刃から伝わってきた。結んだまま押し切って下へと流す。空いた懐にビームランチャーを向けてトリガーを落とした。
(電子戦能力も高い。メイリーの位置もエンリコの位置も意識せずとも入ってくる)
(近くでリンクを張っている間は
これが本物のアームドスキンなのだろう。
(管理局の判断は正解だ。これに慣れ親しんだ精強な軍隊など敵に回すのもおこがましいと思える)
アゼルナは完全に道を誤っている。何に手を出したのか理解できていないのだと感じた。それが分かっていても止める術はない。誰も彼の言葉になど耳を貸さない。
(力で示さねば目を閉じ耳を寝かせたままになる。我らの悪い癖だ)
過去、管理局の警告を無視して経済破綻したのはその所為。
(経済だけじゃなく国ごと滅ぶ気か。今度負ければ政治体制にまで干渉される。どうしてそれが解らん?)
外から見れば明らかな愚行。内からは見えないものなのだろうか?
(運命というやつは俺に不幸の使者を演じろという)
アゼルナにとって滅びの使者になりそうだ。
(それでいいのか?)
愛国心はない。捨てられた存在だ。肉親への情も枯れた。否定材料がない。
(ならば、俺は俺が救いたいものを救うだけ。守りたいものを守るだけ)
迷っても仕方のないことと振り切った。
正面からのビームを躱し、振り下ろされる刃にブレードを叩きつける。弾き飛ばして頭部に膝を見舞う。くるくると回る頭を撃ち抜き、その向こうの敵機の脚まで貫いた。
「いただき」
「確実に潰していくわよ」
頭部を失ったボルゲンはエンリコに両断されている。脚のエネルギーチャンバーを誘爆させたもう一機はメイリーが仕留めた。
「そこの青いのー!」
ノイズ混じりの無線音声。
「好きにさせるかー!」
「ホルドレウスか」
右胸に曲剣の紋章を持つボルゲン。
「なに!? お前、ブレアリウスか?」
「だったらなんだ?」
「諸悪の根源め! お前の所為で僕は立場がない。父上に首を捧げさせてもらう!」
罵倒とともに撃ってきた連射をすり抜ける。恨み骨髄とばかりにコクピット狙いの突きも滑らせて逸らせた。最後はリフレクタ同士をぶつけ合って衝突する。
「お兄さん来ちゃった!」
「来ると思っていた」
「へっ!?」
デードリッテが頓狂な声を立てる。
「執念深い人? 戦うしかないの?」
「敵として立ちはだかるならばな」
「うー……」
普通の境遇ならば禁忌を犯しているように感じるのだろう。致し方のないこと。
「理解してくれとは言わん」
「ブルーにはもっと大事なものがあるんだもんね? 大丈夫。怖がったりしないから」
「墜とす」
ブレアリウスは彼女の言葉に頷き、決然と言い放った。
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