第45話 ※ガンスリンガー失格女
ジョアンナにはガンスリンガーとして重大な欠陥がある。
銃の名前を一つたりとも満足に言えないことだ。
説明書は全部頭に入っているとは言い難く、似たような銃が二つあればどちらが何なのかを識別できない。
故にメンテナンスすら一苦労する有様だ。
例えば、アンチマテリアルライフルの後に構えたサブマシンガンの名前がイングラムM10であることを知らない。
装弾数に至っては『大体三十発くらい』とアバウトな認識しかしていないし、その連射速度の凄まじさからすべての弾が二秒も待たずに使い切られてしまうことも知らない。
理由は簡単。知る必要を感じないからだ。
ジョアンナの持つ能力、精霊の加護はあらゆる投射武器に適用される。銃を撃てば銃弾の軌跡は思い通りに曲がり、勢いを使い切るまで相手を追跡する。
つまり本当に『撃てば当たる』のだから銃の種類を覚えることに意義がない。強いて言うなら機能は大事だが、それは見た目の第一印象で多少はわかる。
そして名前を言えないもう一つの理由は、銃に愛着がまったくないことだ。
彼女にとって銃とは『人を殺すときによく使われるクソ野蛮でゲロ下品な歴史の汚点そのものの発明品』だ。
なので、使った後の銃はよくその辺に投げ捨てられる。リバースの用意した銃は、量だけはかなりあったので。
イングラムM10も、本当に掃いて捨てるほどに持っている。
「え!? は!? ちょ、ちょちょちょ……撃ちすぎじゃない!?」
「だから何!?」
弾切れを起こしたサブマシンガンを捨て、また同じ型のサブマシンガンをマントの裏から取り出し引き金を絞る。また弾切れを起こしたら捨てて、構える。
その繰り返しをしながらパンプキンに向かって前進する。
ドクターも思わず呆れ果てた。
撃てば当たる必中の弾を約三十発、二秒経たない内にすべて叩き込まれれば壊れない機械も死なない人間もそうはいない。
そこまでするべき相手か、と。
「……あ、いやごめん。続けていいや」
しかし、銃を受けているパンプキンを見てすぐにドクターは認識を改めた。
アンチマテリアルライフルをぶっぱなした後で、サブマシンガンを雨あられと浴びせかけられても、パンプキンはまだ二本足で立っている。
(なるほど。わかってきたわ。あの人形の能力の正体。ポケットから接着剤を出していたのはブラフ! アイツの接着剤は、アイツの身体からも生み出される!)
弾丸がヒットした部分から、エアバッグのようにあのムースが発生する。
詳細は攻撃をやめてからでないと検分できそうもないが、おそらく致命的な攻撃は一つも入っていない。
(ただの接着剤じゃない! 中に入った物質のエネルギーを分散するクッションでもある!)
もしもジョアンナが近接での戦いを得意とする人間だった場合、その事実だけで敗因となっていただろう。
接着剤ムースがパンプキンの身体からも発生するのなら、掴みかかったり殴りかかった時点でお終いだ。絡め取られる。
だがジョアンナの攻撃方法は運のいいことに銃撃。
そしていかにクッションとして機能しようが、分散したエネルギーの総量は変わらない。
撃てばパンプキンは仰け反るし、おそらく殴られた程度の衝撃は伝わっている。
身体から発生させたムースを盾にしながら、パンプキンはどんどん後退していく。
「裏切! 席を外すわ! 位置取りは――!」
「わかってるよ! 紅染ちゃんはあの二人に近付けさせない!」
言いながら、今度はドクターが紅染向日葵の居合を弾いた。
「見殺しだってウチにとっては殺しだしね」
「……ああ、そう」
契約が効いていることを確認し、ジョアンナは更に離れていく。
分断はやがて成功した。
◆◆◆
「何あの
「うわー。MAC10をポイポイ捨てるねー。ブルジョワジーな戦い方ー」
雨桐は顔を顰め、傍で見ているクレアに苦言を呈する。
「一応やってるのは私らの仲間なんだから、多少は心配するフリはしとけヨ。副町長がまたヘソ曲げるネ」
「え? いやだって、まだ負ける要素無いじゃん」
「そうだけど。アイツ面倒だから一応心配するフリくらいはしといた方がいいヨ」
「えー?」
クレアは笑いながら、尚も楽しそうに喋っている。
「片方はもう勝ち確なくらいなのに?」
「……あ? あァ……そっか」
雨桐はそこで思い出した。
確かに、この状況に陥れば片方の勝ちは決まったも同然だ。
「どっちがマリーシャの動かしてるゼロイド?」
「パンプキンキャンディー」
「じゃあ、そうネ。あの銃撃
「怖がるねぇ」
「じゃあクレアはどう?」
「……私だって御免だけどさぁ。ふふふっ」
ん? と、そこでクレアは声を上げた。
「そういえばマリーシャの能力って雨桐見たことあったっけ? 知ってるの?」
「去年の忘年会で見せてたヨ」
「ああ、そっかそっか! 去年の忘年会ね!」
あれ? と、またクレアが話題の流れを止める。
「私、それ行ってないよ?」
「呼んだけど来なかったネ。お前」
「……ちなみに二人で飲んでたの?」
「いやお前以外の獄死蝶の中心幹部全員で」
「副町長まで来てたの!? 泣いていい!?」
面倒臭ェ、と思ったが言わない。雨桐は閉口し、話を無理やり終わらせた。
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