序幕
―― 前夜 ――
一九二五年二月
◆
その日、【
彼女はとりわけ不思議がる事はせず、手早く帰り支度を済ませ研究室から出て行く。
宮森は女性研究員が退室したのを
そこには分厚い
奥の空間は研究室の壁面とは地続きになっておらず、その奥行きも計り知れない。
又、照明の
宮森は、
投光器から放たれる光は強烈な
光は
それでも
その行く手には、光などでは到底越える事の出来ない城壁が待ち受けていると
ゆっくりと揺らめく
そう、彼に現世との密度の違いを
彼は
ただ
数瞬の後、
何かが近付いてくる。
舞っている。
この世に行き渡る神の摂理を
それに必死でしがみ付こうとする彼の理性を
ソレは
彼はソレを
覗き込んだ分だけ、ソレが入り込んで来る――。
――。
我に返った宮森は、研究室側に備え付けられた
「おはよう、【
今日の調子はどうだい?」
彼の問いを受けたソレが言葉を発すると、機械に
『……おはよう、せんせー。
きょうは、なにしてあそぶの?』
ソレからのたどたどしい問いに彼は答えず、水槽の中に
ただ愛おしそうに見詰めていた――。
◆
一九一八年 帝都
◇
宮森は大学を悔いの残る形で去った。
だが
団体の背後には
九頭竜会は複数の
しかしその実態は、名立たる企業の上層部、政財界の要人、官僚、軍部将校、学者、芸能人、芸術家、宗教家、警察、司法、果ては裏社会に籍を置く者達をも含め構成された巨大組織で、この国はおろか東アジアで絶大な権勢を誇っていた。
その九頭竜会から宮森に御呼びが掛かる。
どうやら、彼が大学時代に執筆した論文が評価されたらしい。
肝心の論文内容は、この国に伝わる宗教行事から伝説神話の類、民族の出自、
ただ被差別民や超古代文明、宗教儀式の性慣習などについても深く踏み込んだ内容だった為、宮森の在学中は教授達が無視を決め込んでいたものである。
宮森 自身も学問の道で飯を食って行く事は諦め、教育者として世に尽くそうと考えていた所での勧誘だった。
一般的な勤め人の三倍以上の年収に加え、住む場所までも提供される。
将来的には、研究室と助手も付けると言われた。
これだけの好条件に裏が有るのは明白だったが、再び学問の道を目指す事が出来ると云う誘惑には勝てず、宮森は誘いに応じてしまう。
後悔は直ぐにやって来た。
宮森を九頭竜会に推薦したのが、事も有ろうに彼の論文をまともに取り上げなかった、かの教授だったのである。
九頭竜会に所属する学会人達が
そして
宮森はこの
九頭竜会の活動内容は驚くべきもので、異常性、残虐性、反社会性、どれをとっても学問などでは決してなかった。
違法行為などは日常
当然人命も
組織の利益と会員の
そんな日々の只中で宮森の
組織に入会して半年ほど経った頃、宮森は自らの運命を決定付けた瑠璃家宮を始めとする
◆
―― 前夜 ―― 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます