序幕
―― 前夜 ――
一九二五年 二月
◆
その日、【
看護婦はとりわけ不思議がる事はせず、
彼女が退室したのを
そこには分厚い
奥の空間は研究室の壁面とは地続きになっておらず、その奥行きも計り知れない。
宮森は
投光器から放たれる光は強烈な
光は
それでも
その行く手には、光などでは到底越える事の出来ない城壁が待ち受けていると
彼に現世との密度の違いを
彼の前に広がる濃密な
彼は
数瞬の後、
何かが近付いてくる。
舞っている。
この世に行き渡る神の摂理を
それに必死でしがみ付こうとする彼の理性を
ソレは、
彼はソレを覗く。
淵を覗き込む。
覗き込んだ分だけソレが入り込んでくる。
――――。
我に返った宮森は、研究室側に備え付けられた
「おはよう、【
今日の調子はどうだい?」
彼の問いを受けてソレも言葉を発する。
研究室側の
『……おはよう、せんせー。
きょうは、なにをしてあそぶの……』
ソレからのたどたどしい問いに彼は答えず、水槽の中に
ただ愛おしそうに見詰めていた――。
◆
一九二四年 一一月 宮森の自室
◆
宮森は
窓に当たっては次々と崩れ去って外の有り様を変えてしまう雨粒も、彼の心持ちを変えてはくれない。
彼は嫌気が差して雨粒から焦点を外すと、丸眼鏡を掛けた冴えない見た目の青年が
⦅……
宮森は、自らの願望が作り出す彼女の幻影と後悔に
◆
一九一八年 帝都
◇
宮森は大学を悔いの残る形で去った。
だが大してぶらぶらする
その研究機関の母体は【
表向きは複数の名義を使い、社会貢献の
しかしその実態は名立たる企業の上層部、政財界の要人、官僚、軍部将校、学者、芸能人、芸術家、宗教家、警察、司法、果ては裏社会に籍を置く者達をも含め構成された巨大組織で、この国はおろか東アジアで絶大な権勢を誇っていた。
その九頭竜会から宮森に声が掛かる。
大学時代に執筆した論文が評価されたのだと云う。
その論文の内容は、この国に伝わる宗教行事から伝説神話の類、民族の出自、
只、その内容については被差別民や超古代文明、宗教儀式の性慣習などについても深く踏み込んでいた為に、宮森の在学中は教授達が無視を決め込んでいたものである。
彼自身も学問の道で飯を食って行く事は諦め、教育者として世に尽くそうと考えていた所であった。
その時節での誘いである。
条件は破格であった。
一般的な勤め人の三倍以上の年収に加え、住む場所までも提供される。
将来的には研究室と助手も付けると言われた。
これだけの好条件に裏が有るのは明白だったが、再び学問の道を目指す事が出来ると云う誘惑には勝てず、彼は誘いに応じてしまう。
後悔は直ぐにやって来た。
宮森を組織に推薦したのが、事も有ろうに彼の論文をまともに取り上げなかった、かの教授だったのである。
九頭竜会に所属する学会人達が
そして
宮森はこのやり口にまんまと
九頭竜会の活動内容は驚くべきもので異常性、残虐性、反社会性、どれをとっても学問などでは決してなかった。
違法行為などは日常
当然人命も
組織の利益と会員の
そんな日々のただ中で宮森の
組織に入会して半年程たった頃、宮森は自らの運命を決定付けた瑠璃家宮を始めとする
運命の邂逅を果たす事となった――。
◆
―― 前夜 ―― 了
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