第一節 奇妙な訪問者
奇妙な訪問者 その一
一九一八年 一一月 宮森の自室
◇
『あ~あ、やっちまったか。
ま、しゃーないわな。
幽体を投影しちまっただけでも
こうやってる間にも悪臭が広がっちまうから、早いとこオニイチャンとのツナギ、付けさせて
そのまま宮森の腕を登って来る。
「う、うわっ、登って来た!」
宮森は必死で
触れずに擦り抜けてしまうのである。
『あー、ムダムダ。
オイラは実体化してないから触れないよ。
で、今からお前さんの
最初に気持ち悪くなるだろうけど我慢しろ。
オニイチャンの方も気持ち悪いんだからな。
じゃ、邪魔するぜ』
ソレが宮森の左耳から脳内に侵入する。
彼の脳内に侵入した
――暗雲が……込める丘……。
――石柱が円……成して並……いる。
――巻……手にして祝詞……み上げる翁。
――雷……轟き、……体が鳴動する。
――円環……心に虹……球体が顕……。
――肌も髪……っ白な……。
――宮司の面……認めら……。
――女性に纏……付く虹……球体。
――女……苦悶と恍……表情。
――女性と……交わっ……る。
――身籠……子供の父……、生ま……双子の……れを……。
不明瞭な意識の中で不鮮明な
⦅何かが近付いて来る。
あの少年は……⦆
徐々に明瞭になって来た宮森の意識に声が届けられる。
『宮森
僕の事が判るかい?』
宮森の視界が段々と鮮明になって来ると、宮司である少年の顔が、
少年が続けて思考を送って来る。
『
弟が出た時の悪臭が漏れているかも知れない。
下宿の
「……わ、分かった。
女将さんに
……所で、君の事は何と呼べばいいのかな?」
『僕の名前は【
今はその弟が、僕と宮森さんとの【精神感応】を中継してくれている』
声が届くとの同じく、彼らの名前の
例えるならば、『クモ』と言う単語のみを読んだだけではそれが気象現象の『雲』なのか生物の『蜘蛛』なのかは判断出来ない。
しかし
そのまま今日一郎が続ける。
『後それから、僕と精神感応で会話する時は声を発する必要はないよ。
思考してくれるだけでこっちには充分伝わるから』
「え? あ、そうか……声は出さなくていいんだったよな」
思念での会話に驚きつつも、果敢に挑戦する宮森。
『慣れるまで大変そうだけどやってみるよ』
今日一郎からの忠告を思い出した宮森は、自室を出て階下に居る
「女将さん、おか……。
あっ! 女将さん、
小柄だが
「昨日、一寸飲み過ぎまして、悪酔いしてしまい……その」
女将は
「うあっ! 吐いちゃったの?
もー、飲み過ぎにちょっともへちまもないでしょうよー。
でも珍しいわねぇー、宮森さんが部屋汚すなんて。
それになんか、ゲロ以外の臭いもする……。
なんか変なお酒でも飲んだの?」
「えぇ、一寸……。
やっぱり、飲み慣れてないと中々……」
「畳、腐らせないで下さいよ?
駄目になったら弁償して貰いますからね!」
「そ、それでですね、馬穴と雑巾をお借り出来ますか?」
「そうそう、そうだったわね!
女将が馬穴と雑巾を取りに外の洗濯場へと向かう。
その姿は
今日一郎が宮森に思念を
『あの女将は九頭竜会傘下の宗教団体の会員だ。
宮森さんの監視を命じられているみたいだよ。
言動には気を付けて』
『そうだったのか⁈
ま、まるで気が付かなかった。
教えてくれてありがとう』
『どういたしまして。
あ、女将が戻って来た』
あの女将から監視されていた……などと思うと複雑な気分であっただろうが、宮森はそれを押し殺し愛想笑いを徹底した。
「はいよっ、すぐやっとくれ!」
「あっ、ありがとうございます。
終わったら、雑巾洗って干しときますから……」
◇
奇妙な訪問者 その一 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます