珈琲に今を重ねて(ミカミカミ)

 れんあいうんぬんが得意なわけではないが、目の前にいる三人よりは経験値が高いだろう。

 そんなことを考えていたオウガは、ミカに対してしくくすクリスを見つめる。

 横で本を読むヤーの集中力がれつつあるのも察していた。

 

「王子、こちらは西の方でっている珈琲コーヒーに砂糖を混ぜたもので」

「牛乳も入れるんだ?」

「ええ、こうやってまろやかな味わいを」

 

 仲良しである。まるできょうだいが笑い合っているような光景だ。もしくは子犬同士がたわむれあっているふんに近い。

 男女の関係に発展するとは思えない。しかしヤーからすると、かなり気にかかるようだ。

 本のページをめくる指先が止まっている。あせっているみたいだが、その心配は無用の長物だとオウガは理解していた。

 

「ミカ、それおれたちにも飲ませろよ」

 

 ヤーを立ち上がらせ、二人でミカ達に近づいていく。珈琲豆の苦いかおりが鼻をかすめ、ほうじゅんな味を思い起こさせる。

 

「もちろん! ヤー、しいよ!」

「し、仕方ないわね。ねむましに飲んであげるわ」

 

 差し出されたカップをうれしそうに受け取るが、言葉はなおではない。

 少女のかくしはかれているはずなのだが、ミカ自身からは目立った反応が返ってこない。

 まず少年に恋愛についての知識が不足している可能性が高い。十さいからの五年間が、かれを大人から遠ざけた。

 

「オウガ殿どの、砂糖はおいくつで?」

「俺はそのまんま飲む」

 

 あまいのはきらいではないが、好んで食べようとは思わない。あえて言うならば果物のあまっぱさの方がこうに合っている。

 しかし目の前でクリスが残念そうな表情をかべたので、しぶしぶ角砂糖一つ分と告げる。

 として準備を進めるかのじょは、貴族のごれいじょうには見えなかった。

 

「……はぁ」

 

 王族、貴族、天才せいれい術師。いっぱんじんからはほどとおい三人に囲まれ、オウガはみょうな気持ちを味わう。

 それは珈琲の味に似ていて、苦いのだが手放せない。一度覚えてしまったせいで、なかったころの生活にはもどれなくなった。

 

「……」

 

 このまま四人で、だれの手も届かない場所までげられたら――。

 地位も身分もしがらみも捨てて、等身大の自分だけが残るようなかんきょう辿たどいたら。

 この苦い気持ちは消え去ってくれるのだろうか。それともいっしょにいられないのか。

 

いな」

 

 今はただ、わずかに甘くなった珈琲を飲む。

 恋愛も、身分ちがいも、このしゅんかんだけは忘れてしまおう。

 めんどうになったオウガは、思考を続けることをあきらめた。

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