少年が欲しかったもの(ミカミカミ)

 れいそうちょうそうが交差する。

 火花が散るほどの激しいぶつかり合いだが、儀礼槍の動きが速く、長槍太刀は力をめた重みだ。

 しんけんによるけい。城の東側、黄色い薔薇ばらく小さな庭での出来事だ。


 一歩のはばを大きく、かいきゃくによる低姿勢からのこうげきじゅうなんたいと、ばやい動きがとくちょうなクリス。

 かのじょいちげきかわすオウガは、逆にあまり動かない。必要最低限の足取りで位置をずらし、するどい視線に殺気を込める。

 黒のひとみあつされながらも、そうがんきらめく。視線がぶつかり合うが、らすことはない。

 

 だんちゅうとんしょでも中々見られない好試合に対し、ミカはぼんやりとながめていた。

 すごすぎてあくが追いつかない。ヤーなどは本を優先し、耳だけで戦いを感じ取っているくらいだ。

 アトミスとホアルゥはきょうしんしんだが、言葉をなくしていた。

 

りょくが軽すぎる。かくらんにしかならないぞ」

「では、これはどうですかっ!」

 

 力強いしからのちょうやく。全体重を乗せた一撃が、オウガの頭上をねらう。

 一歩動いただけでけ、槍のがらにぎる位置を変える。ばふの上に刃がさったことにどうようするクリスの首筋にうすい線。

 皮一枚をせんさいられた。長槍太刀という大型の武器で、さいな技術。それだけで実力の差はあっとうてきだった。

 

おおりで読みやすい。相手の動きを止めるか、意表をつかない限り決まらないぞ」

「なるほど。手合わせ、ありがとうございました」

 

 額から流れるあせぬぐい、クリスはがおで礼を伝える。

 首から血は流れていない。血管まで届かなかったいっせんは、かれなりのづかいなのだろう。

 それでも傷をつけたことを気にしてか、なんこうが入ったつぼわたす。

 

「第五王子の従者として、傷は消しとけよ」

「もちろんです!」

 

 先ほどまでのはくさんし、なごやかな空気が二人の周囲を包む。

 本を読み終えたヤーが顔を上げ、ミカが二人へと歩み寄っていく。

 

「おつかさま。ミミィとリリィが冷たい飲み物用意してくれているよ」

「それはいい。ありがたくいただくとするかよ」

「はい! ヤー殿どの、今日のおちゃけは兄様が送ってくれた東の領地の特産ですよ」

しそうね。ゆっくり食べるわ」

「そんでたっぷり食べるんだろうがよ」

 

 ささやかなりをらわせようとするが、あっさりと避けられてしまう。

 一足早く部屋に入っていくオウガに続き、いかり心頭のヤーが追いかける。クリスがホアルゥとアトミスを笑顔でさそう中、ミカは庭をかえっていた。

 黄色の薔薇が風にられている。そのあざやかなしきさいが、なつかしい人を思い出させる。

 

「王子、どうかされましたか?」

「ミカ、アタシにはエネルギーが必要だってオウガに言って!」

「ほら、早く来ないと大食いせいれい術師に全部食われちまうぜ」

 

 三人に声をかけられ、ミカは前を向く。

 

「今、行くよ。みんなで美味しいもの食べよう」

 

 笑顔をかべた少年は、歩き出す。

 それは十五さいの少年にさわしい、快活な動きだった。

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