ごちゃまぜ！

あまぁい（スチーム×マギカ）

　台所が爆（ばく）発（はつ）した。

　より正確には『誰（だれ）かがコンロに油をぶちまけて、執（しつ）事（じ）が所持していた銃（じゅう）火（か）器に引火して誘（ゆう）爆（ばく）した』になるだろう。

　借家の居間にて正座するドジっ娘（こ）メイドは、はらはらと涙（なみだ）を流しながら見上げてくる。

「あわわ……ごめんなさいぃ、ヤシロさん」

「……」

　すってんころりんを体現したように、派手な転び方で油をぶちまけたナギサは深く反省している。

　見ている方が気の毒になるくらいの消（しょう）沈（ちん）ぶりであり、おそらく普（ふ）段（だん）の彼（かの）女（じょ）を知らない人がいれば味方だったあろう。

　ただし今月（月初め）で既（すで）に十回超（こ）えている。ドジもここまで突（つ）き抜（ぬ）ければ、最（も）早（はや）災害認（にん）定（てい）でいいのではないか。

「お姉さまに美（お）味（い）しいドーナッツを食べさせたかっただけなんです」

　健（けな）気（げ）に尽（つ）くすメイド。可（か）憐（れん）な容姿も相まって、女性には若（じゃっ）干（かん）弱い自覚がある執事は目に見えない急所が刺（さ）さった。

　ただそれで絆（ほだ）されて見（み）逃（のが）したのも今月（月初め）で十回は超えている。これ以上は見過ごせない。

「責任をとれ、雇（やと）い主（ぬし）」

　鋭（するど）い金色の瞳（ひとみ）が、ソファでくつろいでいた少女を視線で射（い）抜（ぬ）く。

　こげ茶の髪（かみ）で隠（かく）してはいるものの、彼（かれ）の眼光は一（いっ）般（ぱん）人（じん）ならば怯（おび）えるほど強（きょう）烈（れつ）だ。

　しかし気（け）怠（だる）そうに紫（むらさき）色（いろ）の瞳で睨（にら）み返（かえ）した少女は、しばし思案する。

「給料などの条件を含（ふく）め、雇（こ）用（よう）書はコージさん名義のはずですわ。チップは差し上げてますけど、それくらいです」

「だがナギサはお前のために働いている。言（い）い逃（のが）れはするな」

　うるうると涙を滲（にじ）ませた瞳で見上げてくるメイドと、殺気の視線だけで相手を殺しそうな勢いの執事。

　厳格な貴族がこの光景を見たら卒（そっ）倒（とう）しそうだが、人助けギルド【流星の旗】では日常風景だ。

「わかりました。台所は魔（ま）法（ほう）で直しておきますわ。説教はお任せします」

「まあいいだろう。ではナギサ、今回の件は給料から……」

「あわわ……減給されたら、ヤシロさんへのプレゼントが、あ」

　慌（あわ）てて口を両手で塞（ふさ）いだが、犬耳執事は聞（き）き逃（のが）さなかった。

　心の声をそのまま口に出してしまったナギサは、顔を真っ赤にして俯（うつむ）いてしまう。

　耳まで赤くなった可憐なメイドに対し、執事の責務を負う少年は告げる。

「……次、気をつけるように」

「は、はい！」

　甘（あま）い。多重の意味で、大（おお）甘（あま）だ。

　こうしてドジっ娘メイドの失敗は、水ではなく砂糖に近いなにかに流されるのであった。