SS連発
ぜろ
第1話 ねがいごと
質流れ品の古い急須を拭いたら、中から煙が吹き出して魔法使いが出て来た。そいつは魔法と引き換えに急須の精になったのだという。外に出してくれた礼に願いを一つ叶えてやると言われてから、もう一週間が経った。
これは間違いなく人生最大最後のチャンスだ。魔法使いが魔法で自分の願いを叶えてくれる、たったの一回だけ。迷わない方がおかしいというものだ。考え込めば考え込む程にどの願いも気に入らず、急須を睨み付けて時間を過ごしてしまう。
大金があったところで尽きてしまえばそれまでで建設的ではない。家が欲しい事もなく、アパートで十分足りている。飛び切りの美人と結婚、と言うのも、年を取ってしまえば何にもならない。何かの才能を手に入れて、地位得るというのも良いが、対立の激しい場所に出て行く自信はまるでなかった。
一体何を頼んだものか、たった一つだというのがネックだ。せめて複数だったら、いっそ願いの全てを叶えてくれるのだったら、考えたところでふと単純な応えに行き当たる。そうだ、自分が魔法使いになれば良いじゃないか。
結論が出たので魔法使いを急須から出し、願い事を告げた。杖が振られてキラキラとした光が身体を包む。
気付けば自分は狭い急須の中にいた。そうだ、魔法使いとは急須に縛られた存在でしかないのだ。誰かに出してもらわなければいけない、だが部屋には誰も居ないし声も出ない。
どれだけ時間が経ったのか振動があった、そして自分は割れた。家賃滞納で部屋を処分しに入ってきた大家が、自分を卓袱台から落としてしまったのだった。
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