秋乃は立哉を笑わせたい 第7笑
如月 仁成
予告編 島原の乱の日
「ばかな……。凜々花、おまえ今、何て言った?」
木べらを取り落として呆然とする俺に。
凜々花は平然と頷く。
季節と同じく。
人は、変わる。
もちろん、変化というものは。
主観では分からないのが常。
だからこいつも。
「へ? 凜々花、おかしなこと言うた?」
俺を驚愕させているその変化に。
自分では気づいていないようだ。
夕方の台所。
俺の隣に立っているのは。
もう、俺の知っている。
凜々花ではない。
「も、もう一度聞くぞ? お前、ほんとに……」
「うん。凜々花、今日はミートソースの気分なんだってば」
これは反乱だ。
胸の中で大事にして来た『二人の記憶』に対する反乱だ。
俺の得意料理、具沢山かつケチャップがぼろぼろっとだまになっていい感じに麺にまとわりつくナポリタンより、そのレトルトパックの方がいい、だと?
「こいつ、うめーんだよ? ママがこないだおせーてくれてさ。文化祭でおにいが帰って来ねえ時、たいそうお世話になったんさ」
お袋派閥の凜々花が。
お袋の教えたものに傾倒する。
宗教的な要素まで背景にあるとは。
これはもう、俺の手に負える事案じゃねえ。
ミートソースに限った話じゃなく。
友達の影響だったり。
テレビの影響だったり。
本人の中では。
当たり前の変化も。
周りの者から見れば。
それはドラスティックな変化で。
一体、こいつに何があったのか。
今度はどんな変化が訪れるのか。
他にたとえようのないショックに。
両の膝は固い床を激しく穿った。
「ちょちょちょ。おにい、焦げちまうってば野菜。……どしたのん? 舞浜ちゃんに告って玉砕でもした?」
凜々花の、将来の夢。
歌って踊れるマグロ一本釣り漁師。
それすらも、高校に入って。
好きな男でもできて。
そいつと同じ部活に通ってるうちに。
きっと変わってしまうのだろう。
……どうしよう。
彼氏が剣道部に入りでもしたら。
こいつ、将来の夢。
歌って踊れる前衛両手剣使いになってしまうかも。
でも、基本乱暴だから。
天職に見えて来ちまった。
「もう、凜々花が作るからちょっとどいとくれ。パパとおにいも食ったんさい、これうめえから」
将来役立てることができるよう。
飽きっぽいこいつが真面目に取り組むかもしれない。
そして開花する天賦の才。
小手なら相手を骨折させ。
胴なら内臓に致命的なダメージを与えるかも。
でも、それ以上に……。
「おにい、パスタどんくれえ入れる?」
「面だけはやめろっ!!!」
……俺は、こいつが剣道部に入ることは全力で阻止しなければと考えながら。
麺無しという拷問のようなソースをすするのだった。
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