第30話 まずは温泉でも掘りましょう2

翌日、朝から裏庭に出て新たな穴を掘る。


昨日堀った穴から200メートルほど離れた場所に昨日と同じ直径3メートルほどの穴を掘っている。


昨日と違うのは、今朝一番に新しい魔法「土魔法初級」を手に入れたことだ。


土魔法初級で使えそうなのは、土や粘土を砂に変えることと、砂を固めることくらいだが、風魔法と合わせて使うとなかなか使い勝手が良い。


まず穴の中の土を砂に変換する。直径3メートル深さ3メートル程度の深い砂場が出来たところで風魔法で竜巻を起こす。


初級なので強い風は起こせないが砂を持ち上げて外に出すくらいは出来るのだ。


穴の外に積みあがった大量の砂は土魔法で固めてブロックにしていく。


昨日とは違い、魔法を繰り返すだけの簡単なお仕事です。


どんどん深く掘り進めていくと昨日と同じくらいの10メートル程度の深さになる。


1000メートル以上掘る必要のある温泉まではまだまだ程遠い。


さてと魔法をワンスモアっと。


竜巻に巻き上げられた砂が地面に運ばれブロックに......?何かキラキラしたものが落ちてきた。


「金貨?!」


そう大量の金貨が宙を舞う砂の中から零れ落ちて来たのだった。



「これどうすっかなあ。」


結局金貨が出なくなるまで5メートルほど掘り進めて、それなりの量が積み上がった金貨の山を見て途方に暮れる。


「旦那様、こ、これは!」


お茶を持ってきたメイドさんがそれに気付き、すぐにセバスさんを呼びに行った。


「旦那様、これは古代帝国時代の金貨で御座いますよ。


およそ1000年前には亡びたと言われており、このような綺麗な姿で見つかるのは初めてではないでしょうか?


しかもこんなに大量に。」


「ピロリン、マスター。

セバス殿のおっしゃる通りです。


ここには1140年前まで古代ヘルベル帝国の隠し金倉があったようです。


突如発生した巨大地震により、この裏にあった山が崩れてそのまま埋もれてしまったのです。


その後、罹災の混乱につけ込まれて隣国に攻め込まれ、ヘルベル帝国は滅亡、この金貨は失われた存在になっていたようです。


現在の王家はヘルベル帝国とも隣国とも全く関わりが無いため、所有権はマスターにあります。


ちなみに同様の金倉は他にも3つあり、今回掘り出された分だけでも金貨の総額はおよそ1000億ギルになります。」


たしか1ギルが10円くらいだったからこの山だけで1兆円相当か。


後3つあるらしいから、3兆円くらいは俺のものになるのか。




「那様、旦那様、どうかされましたか?」


脳内アシスタントさんの話しに夢中になっていたようだ。


さてどうしようか。


収納を使えば邪魔になるものでもないし、他の未だ埋まっているみたいだし。


俺は他の金倉の位置を脳内アシスタントさんに教えてもらい、セバスさんにバレないように未だ埋まっている金貨だけを収納した。


収納も最近性能が上がって、半径1キロメートル内であれば、たとえ土に埋まっていようと収納出来るようになっているのだ。


庭に3カ所窪みが出来たが、掘り出した土で埋めて隠しておいた。


もちろんセバスさんはじめ、誰にも気付かれていないはず。


魔法ってホント便利。


よし目の前にあるこの金貨だけ、王家に差し出しておこう。




「「まぁ!これはいったい?」」


昼過ぎに例の如く地下通路を使って顔を出された王妃様とイリヤ王女様が、大量の古代帝国金貨を見て驚いている。


いくら王家の人間でも、そりゃ驚くよね。


脳内アシスタントさんに聞いたんだけど、この国の国家予算はだいたい100億ギルくらいらしい。


一度には換金出来ないだろうけど、国家予算10年分だからね。


「はあはあはあ。ヒロシ殿、大量の古代帝国金貨が掘り出されたと聞いたのだがほ、本当か?」


王妃様が国王陛下に伝えたみたいで、陛下まで来ちゃったよ。


しかも屋敷の中の地下通路を出て走ってきたみたい。


「陛下、ご機嫌麗しゅ「挨拶などよいわ。ここには我らしか居らぬ。


おお、これか、これが掘り出された古代帝国金貨だな。


まさしく宝物殿にあるものと一緒だ。」」


興奮しているのだろうな、歳相応の話し方になってる陛下に少し親近感が湧く。


「ところで、この金貨どうするのですか?ヒロシ様。」


イリヤ王女様が聞いてきた。


「ええ、全て王家に献上したいと思っています。


これだけの金貨を捌くのも難しいですし、ここで置いといても場所の無駄使いですし。


王家で国民のために使ってもらったほうが有意義ですからね。」


「おおー、それは我が国にとってもありがたいことだが、ヒロシ殿に全くメリットが無いのではないか。


何か意図があるのかね。」


陛下の刺すような視線が突き刺さる。


「いえ、特に大意はありません。

こんなに立派な屋敷も頂きましたし、冒険者としての収入だけでも充分に生活していけますし。


それにこんなものを持っているのを知られたら、どんな目に遭うか分かったものじゃないですからね。


使えないお金なら、有効活用してもらえるところに使ってもらったほうが良いではないですか。」


「ふふふ、思った通り君はやはり聡いな。

能力だけでなく、頭もかなり切れる。


たしかにこれだけの金貨があっても、普通は騒動の元にしかならん。


王家だからこそ扱えるとも言える。


わかった。この金はわたしが民のために有効活用しよう。


それから、そちには王家顧問の職を与えよう。


なに、形だけの職だな。


家臣ではなく、わたしの問いにヒロシ殿の意見を聞かせてくれるだけで良いのだ。


もちろん、今の生活はそのまま続けてもらって構わない。


その給金として、この屋敷の維持費と充分生活出来るだけの金額を毎月支払おう。


どうだ。悪い話しでは無かろう。」


悪い話しでも無いし、断るのもね。


「ありがたくお受け致します。」


喜ぶ陛下に対して、未だ3000億ギル分の金貨を隠し持っている罪悪感を少しだけ感じながらも、この後お城で開かれる宴会での食事に胸踊るヒロシであった。

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