第29話 まずは温泉でも掘りましょう1
ミーアいや今は猫のタマが屋敷に戻ってきた。
さて次はお待ちかねの温泉堀りを始めましょうかね。
なんて言っても、そのためにこの屋敷を貰ったんだからね。
先ずは温泉を掘る場所の選定から。
屋敷の周りを歩いてみる。
出来るだけお城に近くて風呂場側となると、裏庭のこの辺りか。
せっかくこれだけの広さがあるんだから、露天風呂も欲しい。
となると、隣りの屋敷と接してるから何か囲いが必要だよね。
温泉で囲いとなると定番の竹垣。後で竹を探しに行かなきゃ。
それでは本題。
温泉って、どうやって掘るんだろ?
「ピロリン、先ずどの程度掘れば温泉が出るか調査が必要です。
調査結果を報告します。
土壌については砂や粘土が大半で、大きな岩盤はありません。
次に深さですが、比較的浅く約1000メートルも掘れば充分な湯量を確保できそうです。」
久しぶりの登場、脳内アシスタントさん。
ナイスアシスト。
「ありがとう。やっぱり掘ったら出るんだね。
それで、掘り方なんだけど?」
「掘り方についてはいくつかありますが、一般的には削井機を使います。
しかし、この世界には残念ながら存在しません。
次に土魔法を使って掘る方法がありますが、マスターは未だ土魔法を覚えていないので不可能です。
削井機を作ることも案のひとつではありますが、マスターは削井機をご存知でしょうか。
もしご存知無ければ、これも不可能です。
後ひとつの方法ですが、現実的ではありませんが、今できる唯一の方法です。」
俺の目の前に1本のシャベルが現れた。
やっぱりこれしか無いか…
いや、始めから想像していたけどね。
脳内アシスタントさんが出てきたから期待しちゃったんだよね。
まぁ落胆していてもしょうがない。気長に掘りますかね。
俺は直径3メートルくらいの円をシャベルで描く。
これが、これから掘るエリアだ。
円の真ん中に立ち、シャベルを振り上げ俺は掘り始めた。
今俺はとても驚いている。
悪い意味じゃなくて、良い意味で。
掘り始めてから、既に5時間が経過している。
俺はこの5時間、一心不乱に穴を掘っていたらしい。
セバスさんが、食事の準備が出来て呼びに来てみたら、大きな穴が空いたので驚いて中を見ると、穴の奥深くでシャベルを振り上げている俺を見つけたそうだ。
どうやら俺にはとんでもない集中力があるみたいだ。
こっちに来てから身体能力が馬鹿みたいに高くなっているから、疲れ知らずな上に、編み物を何時間も続けられる根気よさが合わさった結果だな。
「ああ、セバスさん。もう少ししたら戻るよ。」
さあ、別に急ぐ作業でも無いし、少し地面を慣らして今日の作業は終わろう……
う、うん?なんか足元が冷たいような。
み、水が滲み出てきている。
じわっと滲み出てきた水は、だんだん水量を増し、俺の膝辺りまで上がってきている。
俺は慌てて10メートル近い壁をよじ登り外に出た。
水は穴の中で増え続け、地上から1メートルくらいのところでようやく止まった。
どうやら地下水脈に当たってしまったようだ。
飲んでも大丈夫か鑑定してみる。
うん大丈夫。軟水で不純物無し。
実際飲んでみると、少し甘い感じがした。
「これはこれは!旦那様、井戸を掘り当てられましたなあ。
水量も豊富そうですし、水面も近い。水が汲みやすそうです。
こちらは使わせて頂いても?」
「もちろん構わないよ。
でもせっかくだから、もうひと工夫しておこう。」
俺は掘っていく途中で出てきた手頃な大きさの石を集めて穴の周りを囲い、用意していた木の蓋板を被せ、即席の井戸を作る。
次に井戸から屋敷の方に深さ2メートルくらいの溝を掘っていく。
屋敷の中まで溝を引き込んだら、今度はコンクリート作り。
屋敷の裏に大量に埋めてあるゴミを火魔法を使って灰にする。
ゴミ捨て用の穴に大量の灰が出来たところで、水魔法で水を少しずつ入れながら灰を練っていく。
出来たセメントに小石や砂を混ぜて即席のコンクリートを作り、溝に流し込みながら溝の壁面に擦り付けていく。
ある程度乾いたところで火魔法を使い、一気に乾かすと、深さ2メートルの水路が完成。別に作ったコンクリートの蓋を1メートルくらいの深さに固定して、上から土を掛ける。
最後に井戸と水路を貫通させると、井戸から湧いていた綺麗な水が屋敷の中にある水路の出口まで流れ込んできた。
屋敷の中ではメイドさん達が興味津々で水路を見つめている。
丁度地上から1メートルくらいの高さまで水が来ているみたいだ。
屋敷に中側にある水の出口にもコンクリートで枠を作り小さな穴を空けて蓋をする。
その穴に、この世界で元々あったホース(魔物牛の腸を乾かして伸ばしたもの)を差し込み水面よりも下に落とす。
そしてホースの反対側の端を咥えて何度も吸い込んでいると、口の中に水が入ってきた。
口を放しても水はホースから滔々流れて出している。
この世界初の簡易水道完成の瞬間であった。
「「「おおー!!」」」
メイドさん達の歓声が屋敷の中に響き渡る。
これまでは近くを流れる川まで水を汲みに行っていたらしいが、これからは屋敷の中で常に水が出てくるのだから、この世界では画期的な発明であるのだが、当然綺麗な水がいくらでも水道から出てくる世界の住人であるヒロシには、あまり感動が無い。当たり前の話しなのである。
ついでに言うと、セメントやコンクリートもこの世界初である。
あまりにも喜び回るメイドさん達に戸惑いつつも、「次こそは温泉を掘るぞ。」と次のことばかり考えているヒロシなのであった。
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