第26話 引っ越ししました
王妃様達とのお茶会は、2時間ほどで終わった。
姫様は名残り惜しそうだったけど、あんまり女性と話すことが無い男子中学生には2時間のお茶会は、正直かなりキツかった。
また近いうちにお茶会しましょうね。の王妃様の言葉を背に、行きと同じ馬車に揺られて「クマの手」に帰って来た。
停められた玄関前で馬車を降りると、ひとりの男性が俺を待っていたようだ。
「ヒロシ殿でいらっしゃいますね。
わたくし、王家の不動産管理を任されております、クロード・ユズル男爵と申します。
陛下よりヒロシ殿に屋敷を見繕ってお渡しするよう賜って参りました。
ちょうど良い物件がありましたので、早速お知らせに参ったわけです。よろしければ、これからご一緒に参りませぬか。」
早っ。未だ3時間くらいしか経って無いよね。王家スゲー!
俺はユズル男爵に少し待ってもらい、ミーアを呼んだ。
ミーアに家のことを話したら、これから一緒に住むんだから自分も見たいって。
だからミーアも連れてユズル男爵の案内で家を見に行くことにした。
ユズル男爵の馬車に揺られて到着したのは、お城のすぐ横にある豪邸だった。
そりゃお城とは比べ物にはならないけど、外壁を一周するだけで馬車で20分は楽勝。
正面門から屋敷の玄関まで歩いて10分も掛かる。
こんなデケェ家いらねーし。って思ったけど、あまりにもユズル男爵が気持ち良さそうに案内してくれるので言い出しにくくて、結局もらうことになった。
敷地や建物が凄いのもあれだけど、なにより執事やメイド、門番に料理人まで付いているのに驚いた。
ユズル男爵曰く、陛下から下賜された屋敷には付いてくるというか、人が住んで居なくても、絶えず雇っているらしい。
もちろん、給与なんかも王家が負担してくれるらしい。
こんなのがたくさんあって、結構な人数が働いているそうだ。
やっぱり恐るべし王家ということだな。
ミーアも驚いているかと思ったんだけど案外普通。
そうだった、忘れていたけどミーアって魔国の大貴族のお嬢様だった。
「ふーん、なかなか良い屋敷じゃない。2人だしこのくらいで充分だよね。
調度品も結構良いものが使われているみたいだしね。」
「おや、お嬢様。なかなかお目が高いですな。
はて、この国の上級貴族にはお見かけしませんが…」
ユズル男爵、なかなか鋭い。
心なしか、目がキッとしたようにも見える。
「ユズル男爵様、実は俺達流れの冒険者でして、様々な国の王家や貴族の仕事もたくさん受けているんです。
だからミーアも目が肥えてて。」
苦し紛れの言い訳だけど、通用するか?
「なるほど、そういうことであれば納得ですね。
王家から失礼の無いようにと仰せつかっておりますし、ヒロシ殿のおっしゃることに間違いはありませぬでしょうな。」
アチァー、口では信用してるって言ってるけど、絶対疑ってるよね。
「ところでヒロシ殿、こちらの屋敷はお気に召しましたでしょうかな。」
一通りお屋敷を案内してもらい、だいたい把握出来たつもり、…部屋数多過ぎで迷子になりそうだけど。
「ユズル男爵様、俺達には大き過ぎる気もしますが、せっかくなので、住まわせて頂こうと思います。」
「それは良かった。実はこの屋敷は王妃様が推薦された物件なのですよ。
お城も近いですし、だいぶ王妃様に気に入られたようですな。ハハハハー。
わたしの屋敷もすぐ近くですから、何かあればなんでも相談して下さいね。
それでは屋敷の者達を紹介しましょう。
セバス、皆をこちらに。」
先程から俺達の後ろをついてきていた見るからに執事の男性、セバスさんが前に進み出てくる。
いつの間にか使用人の皆さんも整列していた。
自己紹介が始まり、終わったのは30分後。
執事のセバスさんを筆頭に、メイドから料理人、庭師、番犬までが並んで挨拶をしてくれた。
始めの数人までは覚えたけど、皆んなは無理。
まぁ、その内覚えるだろう。
後でミーアに聞いたら全員の名前と顔を覚えたって。
さすが、お嬢様は慣れていらっしゃる。
ユズル男爵も帰られ、俺達もそれぞれの部屋に案内される。
今日はとっても疲れた1日だった。
ふかふかのベッドに入ったらそのまま寝てしまいましたよ。
翌日、勝手に俺の部屋に入ってきたミーアに叩き起こされる。
宿屋に荷物を取りに行きたいって。
俺も昨日何も言わずに宿屋に戻らなかったから、今から朝食を食べて、その後行くことにする。
朝食はパンとハムエッグ、サラダと、オーソドックスなスタイル。
昨日の晩に聞かれたから、そうお願いしておいたんだ。
あまり朝から重いのも胃に堪えるからね。
料理長さんは腕が振るえずに少し残念そうだったけど。
今晩からは腕を存分に振るってもらおう。
ミーアと一緒に「クマの手」に向かう。
途中、冒険者ギルドに寄って引っ越しの挨拶をした。
ホールドさんもミルクさんも驚いてた。
クマの手でミーアの荷物を受け取り、宿代を精算する。
また来ますと約束して「クマの手」を出た俺達は、ラスク亭に寄って引っ越しの報告をした後、今日の依頼分を確認した。
うん、依頼分は収納の中にあるもので充分だ。
ちなみにラスクさんには俺の収納の話しはしてある。
そしたら、冷蔵庫代わりに入れておいて欲しいって。
冷蔵庫とは言わなかったけど、収納に入っている分には鮮度を保てるからね。
とにかく今日の分を納品した。
「そうだヒロシ君。スタイロンのところの専属にもなってやれないかい。」
ランスさんが思い出したように話し出す。
「スタイロンが俺のことを羨ましがってさあ。
結構圧を掛けて来るんだよ。」
「分かりました。スタイロンさんにもお世話になってますし。
引っ越しの挨拶がてらスタイロンさんの店に行ってみます。」
「頼んだよ。じゃあまた明日な。」
ラスクさんと別れた俺達はスタイロンさんの店に向かったのだった。
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