第12話 いきなり契約冒険者になりました

久しぶりの行水を満喫したら、睡魔が襲ってきた。

ベッドでゆっくり眠れる安心感から、ぐっすりと眠れたようだ。


翌日、遅く起きた俺は、食堂でマリンさんと話している。


遅いって言っても冒険者基準だから、朝の7時くらいだよ。


ちなみに普通の冒険者は、5時くらいから活動しているみたい。


「ヒロシさん、今日はどうするんだい。」


「冒険者になりたいんだけど、この国の冒険者ってどうしたらなれるのですか?」


「冒険者になりたいのかい。まあ、そうだろうねえ。


そう言えばヒロシさんは遠い国から来たって言ってたねえ。


この国の冒険者には2通りあるんだよ。

1つ目は冒険者ギルドにくる依頼書を見て、ダンジョンの探索や魔獣狩りをするフリー冒険者。

2つ目は食堂や店舗と契約して、そこの専属となって、食材や必要な材料なんかを採取してくる契約冒険者。


どちらも冒険者ギルドに属するんだけどね。


大体の冒険者は最初フリー冒険者になって実績や信頼を積んでから契約冒険者になる場合が多いね。


フリー冒険者は、危険度が高いうえ、博打的な要素が強いからねえ。冒険者に成り立ての頃は安定した収穫が無いからさあ、契約冒険者に成れないことが多いのさ。


真面目に経験を積んで安定して収穫を得られるようになったら、店の方からスカウトに来るケースが多いねえ。


契約冒険者の中には複数の店舗から契約を貰っていて、結構稼いでる人たちもいるみたいだねえ。


もちろんフリー冒険者で頑張って巨万の富を得ている上級冒険者も王都にゃたくさんいるよ。」


フリー冒険者と契約冒険者かあ。


ラノベ展開だったら一生フリー冒険者で巨万の富コースかな。


そんなことを考えながら、マリンさんに教えてもらった冒険者ギルドへの道を歩く。


「ここがそうみたいだな。」


石造りの一際大きな建物の前に着くと、重装備した冒険者達が続々と建物から出てくるのが見えた。


冒険者の朝は早い。朝早く張り出される依頼書を誰よりも早く選別して、少しでも効率の良い依頼を勝ち取る必要があるからだ。


今は朝の8時過ぎ、冒険者ギルドの建物の中に入ると、既に受付の前は閑散としていた。


「冒険者になりたいんですけど、手続きはこちらでいいですか?」


「はい、こちらで大丈夫です。登録に5000ギル必要ですがお持ちでしょうか?」


やっぱり登録料は必要だな。これもラノベの定番。


「はい、持っています。」


「ではこれに記入を。文字は書けますか?」


うっ、そう言えばこちらの文字は読めなかったんだっけ。


「いえ、遠い国から来たので、話しは出来るのですが、読み書きはちょっと。」


「わかりました。あっ大丈夫ですよ。読み書きできない人って結構いるんです。

でも今後必要になることも多いんで、勉強はしていってくださいね。


じゃあ、まず上から読んでいきますから答えてくださいね。


まず名前は......」


受付のお姉さんに1つづつ読み上げてもらいながら口頭で答えていく。


「はい、これで大丈夫です。登録料をお支払い頂けますか?」


俺が5000ギル差し出すと、お姉さんは「ちょっと待っててくださいね。」って言って奥に入っていった。


10分後、奥から出て来たお姉さんの手には、ブロンズ色のペンダントが掴まれていた。


「はい、ヒロシさん。これがあなたのギルド証です。最初なのでF級からですね。

あそこの掲示板に依頼書が貼っていますので、自分のランクの分を取ってきてもらえばいいんですけど、ヒロシさんは文字が読めないので、無理ですよね。


とりあえずわたしのところに来てもらえば、良さそうなものを取り置きしておきますね。


あっ申し遅れました。わたしの名前はミルクと言います。よろしくお願いしますね。


それと、この後実力測定を受けることができますがどうしますか?


必須じゃないんですけど、冒険者ギルドの教官が実力を測定して、強化すべきところや欠点を指摘してくれるので、ほとんどの方が受けられるのですが。」


これって、いきなりチートを発揮して教官を負かしてしまうやつ?


それでいきなりC級昇格とか、ギルマスのところに行くとか。


ラノベの鉄板だよね。


「はい、もちろんお願いします。」


「じゃあー奥に行きましょ「ヒロシく~ん、やっぱりここにいたね。」う?」


ミルクさんについて奥に行こうとしたところで、ミルクさんの声を遮り俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


振り返るとそこに食堂ラスク亭の主人ラスクさんがいた。


「いやあ、きっと冒険者になると思っていたんだ。昨日の食材がねえ無茶苦茶評判が良くってさあ。


是非ウチの専属になって定期的に食材を持ってきてくれないかなあと思って。


ウチの契約冒険者は嫌かい?」


「ラスクさん。お久しぶりです。ヒロシさんをご存じなんですか?


ヒロシさんは今登録が終わったばかりの新人なんですけど、いきなり契約でよろしいんですか?


1年間は契約解除できませんが。」


「大丈夫だ。ヒロシ君お願いできるかな。」


俺は意味が分からず、ミルクさんを見る。


「ヒロシさん。契約冒険者とフリー冒険者の違いは分かりますか?」


「ええ、今朝宿屋のおかみさんに教えてもらいました。」


「ラスクさんが、あなたに専属契約をお願いしたいとおっしゃっています。


普通は5年以上安定して活躍している冒険者が専属契約になるケースが多いのですが、今回のようなケースは異例です。


専属契約すると、1年間は契約が保証されます。収入は安定しますが、契約先の希望するものを獲得するために実力以上のクエストが必要になる時もあります。


わたしとしてはあまりお勧めできないのですが。」


「頼むよヒロシ君。昨日の食材みたいなものをいつも要求するわけじゃない。ありきたりの物でいいんだ。

あの丁寧な捕獲と鮮度の良い保管が何よりも欲しいところなんだよ。」


「ちなみに、その食材っていうのを聞いてもよろしいですか?」


ミルクさんの質問に、ラスクさんはちょっと考えて答える。


「黙ってておいて下さいよ。実は吸血蚊なんです。それも5匹。無傷で鮮度の良いやつ。」


「ええええっ!吸血蚊!」


「声が大きい。しーっ!」


「失礼しました。しかし、ヒロシさん、本当に吸血蚊を5匹も捕まえたのですか?」


「ええ。そんな驚くようなことですか?」


「そんなって。吸血蚊の群れ討伐ってC級以上の冒険者が10名以上の討伐隊で臨む強敵ですよ。

ソロで捕まえられるのってA級って呼ばれるごく一部の冒険者だけですよ。」


「とにかく、秘密は守ってくださいね。ヒロシ君はウチの専属になってもらうので手続きお願いしますね。」


そう言うと、ラスクさんに手を引っ張られて、俺は冒険者ギルドを後にするのだった。

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