第11話 なんかラノベみたいになってきました

魔法師団の事務所に来て既に2時間が経とうとしています。




お父様にあの方の事、どうしてもお礼がしたいことを伝えました。


お父様は私の話しに最初は驚いておられましたが、私が能力を披露したところ信用して頂けたようです。


同席しているマリルも興味深々なようで、私の手助けを申し出てくれました。


お父様もマリルもあの方の能力に魅力があることと、他国にとられる前に自国に取り込みたいと思う気持ちが強いようですが、私としてはあの方に会えれば、そんなことはどうでも良いのです。


あの数のシルバーウルフを一瞬で倒してしまったあの方の能力をもってすれば、むざむざと捕まるようなことはないでしょうし。



「イリヤ王女様、次はこの束を確認いたしましょう。」


魔力波長台帳は、先々代の国王の時代から続く戸籍のようなものです。


私達は大なり小なり魔力を持っています。

魔力波長は人により異なり、全く一致することは無いといわれています。


そのため、全ての国民が魔力波長を登録しており、本人確認をするために利用しています。

もちろん犯罪歴なども紐付けていますので、防犯にも一役買っているのです。


魔力波長は魔力探知装置で検知することが出来ます。


検知する範囲を広げることで、似たような魔力を持った人を見つけることも可能です。



「あっ、この波長似ています。もう少し幅が広いような気もしますが、流れは近いものがあります。」


「では、この波長で縦に幅を持たせて検知させるように致します。」


ランスが魔法波長を魔石にコピーして、騎士達に指示を出す。


「イリヤ王女様のご命令である。

王都の全ての門にこの波長の探知を行い、発見した場合は直ちに保護の後、私まで連絡するように伝達するのだ。

急げ!」


「「「はっ!」」」


騎士達が迅速に王都にある6つの門に分かれていく。


30分後には、6門全てに設置できたとの報告があった。


「姫様、これで通りかかられれば、見つけられるはずです。」


「そうですね。隠蔽魔法を掛けておられなければよいのですが。」





>>>>>>>>>>>>>


王女様の帰還パレードの熱が冷めきらない王都は、酒場も食堂も超満員だった。


晩御飯を食べながら「王女様が無事でよかった。」とか「ランス様カッコいい。」とか様々な声が聞こえてくる中、俺は昼を食べた食堂の店主ラスクさんに教えてもらった「クマの手」に到着した。


「こんにちは。食堂のラスクさんに紹介を受けて来たんですが、今晩泊まれますか?」


「おおっラスクからかい!大丈夫だ泊まれるよ。1泊でいいのかい?」


「出来れば1ケ月くらいお願いしたいのですが。」


「1泊朝晩2食で500ギルになるがいいかい?1ヶ月分前払いなら1万2000ギルにしておくけど。」


「じゃあ、前払いで。」


懐にはたんまりお金があるので、前払いで頼んでおく。


もし不測の事態に巻き込まれたとしても、最低限食と住は確保できるからね。


お金を支払うと、「クマの手」のご主人シモンさんが2階の一番奥の部屋に案内してくれた。


「ちょうど晩御飯の時間だから下の食堂で食べられるよ。」


昼はお腹を壊して結局あまり胃に物が入っていないから腹ペコだ。


ここに来る途中で買った日用品を机の上に放り投げて、シモンさんと一緒に食堂に向かった。


「クマの手」のとなりに食堂はあった。


その食堂はシモンさんの奥さんであるマリンさんが経営しているそうだ。


「泊りのお客さんは日替わり定食になるけどそれでいいかい?酒や他の料理は別会計になるからね。」


「じゃあ、日替わり定食をお願いします。」


「あいよ。」


マリンさんの威勢の良い声が食堂に響き渡る。


こりゃ絶対シモンさんって尻に敷かれているってやつだ。


マリンさんの作る食事はどれも美味しかった。


ラスクさんの料理も白アントもどきが残念だっただけで他は美味しかったに違いない。


そもそも、「跳梁の草原」を荒らしたのは俺だから、ラスクさんに罪は無いはず。


ごめんなさい。


部屋に戻った俺は大きなため息をつく。


ラノベの定番では、異世界のご飯が不味くて、日本での料理を流行らせるなんて言う展開があるけど、この世界の料理は美味しかった。


いや、それ以前に俺って料理が出来なかった。15歳の男の子って大抵はそんなもんだよね。


とにかく、ラノベ定番の「日本の料理で異世界生活を満喫する」ってストーリーは無くなったのだった。


俺は収納から大きなタライを取り出す。


昼間散策ついでに行水用に買ったやつだ。


「ラスク亭」のリルちゃんにこの世界のことをいろいろ聞いてみたんだが、やはりお風呂は貴族専用みたいだった。


幸い俺には火魔法中級と水魔法中級がある。うまく使えばお湯を出せるだろうから、タライさえあれば行水できる。


早速俺はお湯に挑戦する。


まず火魔法から。「ボッ!」炎が激しくでて、危うくベッドを焦がすところだった。


火力を調整して小さな炎をイメージする。「ポッ。」こんどは小さすぎた。


先に水を入れよう。


水魔法で水を出す。イメージ的には2リットルのペットボトルくらい。


「チョロッ。チョロッ。」す、少な!


石油のポリタンクサイズをイメージ。「ジョボジョボジョボジョボ。」


それなりの量が入った。あと2回同じイメージで水を入れる。


タライの1/2くらいに水が入る。


次は火魔法に再チャレンジ。


水の上に炎の球体をイメージする。タライの1/4くらいの大きさで火球が浮かぶ。


水の中にそっと沈めてみた。


「ジュー!ジュー!ジュー!」


熱した鍋に水を入れた時のような音がするが、火球全てが水の中に収まったら音は消えた。

しばらくすると水の中から泡が出てきてお湯が沸いてきた。


5分程でちょうど良い温度になったので、火球を消す。


なんかラノベみたいな展開になってきたことを喜びつつ、この世界に来て初の行水を楽しんだ。





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