第87話 騎士団長の息子は親友に委ねる
「なんだかんだで卒業まであと少しだね」
『プレデター』などの出来事をなんとか乗り越えて平和な日常を取り戻すと、早いものであっという間に学園からの卒業の時期が迫ってきていた。授業中でも時々念話でアリスと話しながら過ごしていると、リンスはそうとは知らずに話しかけてきた。
「君とこうしてここで過ごすのも残りわずかになったね」
「ああ、そうだな」
「それはそれとして、さっきから何をしてるの?」
「魔法でアリスと会話してる」
その言葉にリンスは少しだか間をあけてから、苦笑して言った。
「君は本当に何でも出来るようになったんだね。でも、それを活用するのがミスティ嬢のためとはなんとも君らしいけど」
「普通そんなもんだろ」
「本当に普通なら、その力でやることは他にもあると思うけど?」
「例えば?」
そう聞くとリンスは少しだけ考えてから答えた。
「世界征服とか?」
「そんな下らないことするつもりは微塵もない。まあ、必要ならするかもしれないが」
それがアリスのためになるならするだろう。まあ、とはいえ面倒そうなのであまりやる気はないが。そもそもこの力をあの女から押し付けられた時点で既に使い方は決めていたのだ。アリスのためにしか使わないと。例外があるなら、きっとあの女が求めていた『プロメテウス』相手の時だけ。そいつはかなりの化け物らしいが、邪魔をするなら容赦はしない。きちんと片付けるだろう。
「それはそうと、頼みがあるんだけどいいかな?」
「今度はなんだ?あまり面倒なら引き受けるつもりはないぞ」
「わかってるさ。頼みたいのはシンシアの結婚式に着るウェディングドレスなんだけど、君のデザインしたものを使わせて貰えないかな?」
「王族には専用のものがあるんじゃなかったのか?」
何年、何十年と改良を重ねてある伝統あるものがあると聞いたような気がするのでそう言うと、リンスは少しだけ困ったように言った。
「折角の結婚式に古くさいものはちょっとね。専門の職人のメンデルさんに相談したら君のデザインしたものを進められたんだ」
「まあ、構わないけど……元のデザインとは少し変えてくれよ。結婚式のウェディングドレスが被るのは許さないからな」
「わかってる、ありがとう」
それで話は終わったと思ってアリスとの念話を続けようとすると、再びリンスは言ってきた。
「そういえば、エクスは卒業式が終わってからすぐに結婚式なんだよね」
「ああ、翌日には結婚式を行う。というか、招待状渡したろ?」
「まあね。でも、本当に親族と僕達だけでよかったの?」
「むしろ、アリスのウェディングドレス姿を他人に見せる必要はないだろ?」
アリスも大きな式は望んでいないのだ。なら、身内だけで小規模に行いつつも、内容はかなり濃くするのがベターだろう。そもそもアリスをウェディングドレス姿のままお持ち帰りするのだから出きるだけ面倒事は避けるべきだろう。もう少しでアリスを本当の意味で嫁にできるのだ。絶対にいい結婚式にしようと決意すると、リンスは笑顔で言った。
「確かにね。僕もそうできたら良かったけど……」
「お前は王子だし、相手は他国の王女様。どう考えても無理な話だな」
「だろうね。でもまあ、少し楽しみでもあるんだよね。終われば僕はこれから忙しくなるけど」
「まさかあの国王が本当に王位をすぐにお前に譲るとはな」
もちろん少し先の話だがすでに日時も決まっており、リンスはかなり若いうちに王位を継ぐことになりそうだ。最年少国王陛下になるのはかなりの重責だろうが、頑張って貰わねばならないだろう。
「新婚旅行にも行くんだよね?」
「ああ。それが終わったら本格的に騎士団に入ることになる」
「まずは副団長からなんだってね」
「俺は平でもいいと言ったんだが……騎士団からの強い要請だからな」
コネで入ると後々色々言われるだろうから、何度か顔を見せて任務にも参加していたらいつの間にかそこまで慕われていたようだ。元々俺のこれまでの仕事を評価してくれていたようで、今の副団長が年齢的に引退するのと同時にそこに入ることになりそうなのだ。そしてその引退がかなり早いので、だったら俺が騎士団に入るついでになってもらおうということらしい。
まあ、妬みなどがまったくないわけではなさそうだった。何名かは少しだけ不服そうだったので、俺はわざと力の差を見せつけつつも友好的にしたらあっさりと納得してくれたのだ。
「まあ、君らしいね。お互い頑張ろうか」
「ああ、そうだな」
少なくともリンスが国王になれば国は今より安定するだろう。こいつは割りと天才な上に頭もいい。冷静に物事を把握できるのできっと善き王になるだろう。まあ、一応こいつの部下になるにはなるので、口調は直すべきかと思ったが、公の場以外では普通にしてくれと頼まれているのでいいのだろう。今さら無礼とか気にしたら敗けらしい。まあきっとリンスとは今後も友人として過ごすことになるだろうから、たまには手助けでもしようかと気まぐれを考えつつ過ごすのだった。
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