第85話 騎士団長の息子は婚約者に驚かれる
「おはようございます、エクス」
いつもの笑みでそう言ってくるアリスに癒されながら俺はこの日常のありがたみを感じる。最近やたらとバトル展開やらが多くて、なおかつ『プレデター』という存在を退けたからこそ、こうしてアリスとの残り少ない青春を謳歌したいのだ。
「おはよう、アリス。今日も可愛いね」
「あ、朝から突然すぎます……もう……」
そう言いつつも嬉しそうな表情のアリスに癒されていると、俺はアリスの異変に気付き思わず手を掴んでいた。
「え、エクス?いきなり何を……」
「この指、どうしたの?」
見ればアリスの右手に小さく傷が出来ており、それを指摘するとアリスは少しだけ困ったように微笑んで言った。
「少しだけ本の角で切ってしまって。でも大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。少しだけじっとしててね」
俺はそう言ってからあの女から引き受けてしまった魔法の中から一番適したものを選んで発動させる。発動させる魔法は治癒系統魔法の回復上級魔法。基本的には外傷ならば確実に治せるそれを使ってアリスの傷を一瞬で治すとアリスは驚きながら聞いてきた。
「エクス。その力は……」
「色々とあってね。こういうことも出来るようになったんだよ」
「回復魔法……ですよね?」
「一応ね。大丈夫そう?」
そう聞くとしばらく指を動かしてからアリスは頷いて言った。
「ありがとうございます。大丈夫です」
「なら良かったよ。アリスの怪我なんて見たくないからね」
「私もエクスの怪我は見たくないです。だから聞きたいのですが……エクス、また何か無茶をしてますね?」
「そう思う?」
「言っても無駄だとわかってはいますが、無理はしないでください。エクスに何かあったら私は……」
その言葉を言いきる前に俺はアリスにキスをして黙らせてから俺は言った。
「心配してくれてありがとう。アリスくらいだよ、俺のことを案じてくれるのは」
「あ、当たり前です……」
キスの衝撃で真っ赤になるアリス。そんなアリスを心から愛しく思いながら俺は笑って言った。
「アリスの心配するほどのことは何もしてないよ。それに何があろうと俺はアリスの元に最後には帰るって約束できるからね。だから信じて欲しいかな」
まあ、そもそも魔法を無効化できる上に身体能力が化け物でなおかつ魔法をいくつも保持している化け物に心配なんて必要ないだろうけど、それでも心配してくれるのが俺のアリスだ。近いうちに嫁に迎えるので本当に素晴らしい嫁だと心から思う。
「そういえば、今日はシンシア様とお茶をする約束をしているんだよね?」
「はい。シンシアさんと色々話したいので」
「そっか。なら終わるまでは暇を潰しているから、終わったら呼んでよ。すぐに駆けつけるから」
「呼ぶって、近くですか?」
『いんや。こうやって』
頭の中に直接語りかけるとアリスはかなり驚いてから聞いてきた。
「エクス、これは……」
『これも魔法だよ。終わったら今の感じで俺の名前を呼んでよ。そうしたらすぐに駆けつけるから』
「これも魔法……あ、あのじゃあ、これからは離れててもエクスとお話できるのですか?」
『もちろん』
「そうなんですか。凄く嬉しいです」
こんなとんでも現象を見せられてこの反応はやはりアリスが俺の嫁にふさわしい証なのだろう。どんなことにも動じずに受け入れる包容力。可愛い上に理解もある嫁とかパーフェクトすぎる。
「まあ、これからは好きな時に呼んでよ。いつでも応えるから」
「それは……凄く嬉しいですけど、贅沢ですね。いつでもエクスと一緒にいたいという気持ちは私のワガママなのにこうして現象になるなんて思いませんでした」
「まあ、俺もそう思うよ」
あの女から受け継いだ力だが、こんな時には役に立つ。これでアリスの側にいつでも行けるし、アリスのことをストーカーみたいに把握することも出来るようになったのだ。まあ、もちろん自重はするが、最低限アリスの安全と、いつでも呼び掛けに応じられるように待機する必要はあるだろう。
しかし、瞬間移動と念話の魔法は使い勝手が良すぎる。これでもし仮にアリスを残して遠出することになっても、いつでも帰ってアリスとイチャイチャできるのだ。こないだみたいな失態をせずに済むし、一応仕事にも影響は出ないだろうし色々と捗るものだ。
まあ、瞬間移動には少しだけ制限があるけど。俺がイメージできる範囲でしか移動が出来ない。つまりは行ったことがある所にしか移動できないのだ。ここから海を渡って東の大陸に行きたくても、向こうを知らないといけないということだ。まあ、そんなの無視して行く方法もあるけど、それはリスクが高いのでおいそれと使えないのだ。だからこそ俺は瞬間移動と念話という魔法にだけは感謝を抱く。
やっぱり身体強化だけではアリスの全てには対応できない。こうして多様な力を持つことが大切なのだ。
「さて、じゃあ行こうか」
「はい」
そうして俺達は残り少ない学生生活を謳歌することにするのだった。婚約者でいられるのもあと少し。楽しんでいこうと思うのだった。
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