第80話 騎士団長の息子は戦の準備をする

お祖父様から『プレデター』の話を聞いてから俺は一人で準備を進めていた。流石に今回は一人でやる必要があるからだ。そうして準備をしていると、不意に気配を感じたので振り返ると父上が立っていた。


「何かご用ですか?」

「随分と張り切っているから気になってな」

「そう見えますか」

「なあ、エクス。父上……お祖父様から何を頼まれた?」


真剣な表情で聞いてくるので俺は少しだけ考えてから素直に答えることにした。


「父上は『プレデター』という名前をご存知ですか?」

「やはりか……お前がその名を知っているということはこれから倒しにいくんだな」

「ええ、その通りです」

「なあ、エクスよ。私に任せるつもりはないか」


そんなことを言ってくる父上。いつもなら是非ともお願いしたいが、今回ばかりは父上でも勝てなそうなので断ることにする。


「そのお気持ちだけで十分です」

「止めても無駄か……『プレデター』は私達も今追っている存在だ。魔法を奪うという驚異的な力にそれを操るという前代未聞の力。私はそいつの話を聞いてからある男の姿を思い出してしまっている」

「『プロメテウス』ですね」


おそらく複数の魔法を使えるという点でも類似しているのだろう。手加減されたとはいえ片腕を落とすだけで精一杯だった父上に逃げることしか出来なかったお祖父様。二人の怪物がダメだった相手をこれから倒さねばならないとはなんとも最悪ではあるが、そのせいでアリスに危害が加わるのは我慢できない。なので倒すしかないだろう。


「あいつ本人だとは私も思ってはいない。だが、奴に近いなにかを感じるのも事実なのだ」

「ええ、間違ってないと思いますよ」

「それでも行くというんだな?」

「まあ、負けるつもりはありませんから」


魔法を奪って使えるなんてチートじみているが、なんとかならないとは限らない。『ゼロ』という切り札があるというのもそうだが、例えば相手がこれまでの被害者を殺していない点。これは一見世間に吹聴するためのものにも見えるがもしたしたら、生きていないと力を使えないからかもしれない。奪った力を使えるのはその人間が生きていることが前提条件という見方もある。まあ、これはかなり楽観的なものだけどね。


さらに相手からどうやって奪うのかも問題だ。相手に一定以上のダメージを与えてからでないとできないのか、接触するだけでできるのかなど細かく違うだろう。それらを総合的に見てから結論を出すべきだろうが、負けるとは言えないだろう。


「そうか……ならばこれも持っていけ」


そうして父上から渡されたのは不思議な形のブレスレットだった。


「これはなんですか?」

「魔法を強化するアクセサリーだ。それだけで普段の何倍もの力を出せる」

「ありがたいですがいいのですか?」

「ああ、お前の安全のためだ。今は大切な時期。アリスちゃんのためにも死ぬなよ」

「ええ、当たり前です。むしろアリスのためにも倒すつもりですから」


アリスに危害が及ぶ前に倒す。相手がどれだけ強かろうと負けていい理由にはならない。そもそもただの戦闘狂に負けるのは嫌だ。俺には守らなければならない大切なものがあるのだ。それを害するなら誰であろうと容赦はしない。例えラスボスクラスの敵でも確実に倒して平和を勝ち取ってみせる。そして俺はアリスとのイチャイチャライフを取り戻すのだ!もう、こんなバトル展開にはうんざりしている。早く片付けてアリスと二人でイチャイチャラブラブして楽しもう。


そう思ってからブレスレットをつけると不意に力が沸いてくるのがわかった。


「父上、これは魔法だけではありませんよね?」

「ああ、身体能力も僅かながら上がるそうだ」

「それはまた、私達の魔法にぴったりですね」


身体強化魔法にプラスでこの力は凄すぎるが、しかしこれを使っていたはずの父上が負けるほどの『プロメテウス』という存在にはますます疑問がうまれてくる。まあ、今はそいつのことはどうでもいいか。まずは『プレデター』だ。どこまで俺の力が通じるか。どうやったら完璧に勝てるのかをしばらく考える。やはり身体強化魔法と『ゼロ』を同時に使って倒すしかないか。しかしこのブレスレットで身体強化がどこまで上がるのか。想像がつかなかった。そもそも俺は身体強化魔法をそこまで使ったことがない。使うほどの相手に巡りあってないからだ。だが、今日ばかりはそんなことを言ってくる場合ではないだろう。


イメージして魔法のトリガーを認識する。うん、大丈夫。発動はできる。あとはコントロールがどこまで出来るかだな。下手したら辺り一面を焦土と化してしまうかもしれないのでそこは気をつけないといけない。やっぱり普段からきちんと練習しておけば良かったなぁと思いながらため息をついてしまう。まあ、今更嘆いても仕方ない。出来ることを最後までやって結果を出してアリスを愛でる。やることは絶対的に変わらない。俺の中の優先順位は今も昔もアリス一色だ。そんな感じでアリスが恋しくなりながら準備するのだった。




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