第79話 騎士団長の息子は祖父の話を聞く
「お久しぶりですお祖父様」
色々と結婚式の準備が着々と進む中で、俺は今現在呼び出されてお祖父様の元に来ていた。忙しい中で来たのだが、お祖父様はのんびりとして口調で聞いてきた。
「久しぶりじゃの、エクス。『ゼロ』の様子はどうじゃ?」
「びっくりするくらい使えてます」
「それは良かったのぅ。ところで、エクスよ。ちぃとばかり聞きたいのじゃが、お主は『プレデター』の噂は知っておるか?」
「『プレデター』ですか?」
「うむ、最近巷で話題になっておるのだ。なんでも魔法を持つ人間を狙っているそうで、襲われた人間は例外なく魔法を失うそうだ」
その言葉に少しだけ考える。そして聞いていた。
「襲われた人の生死は?」
「かなりの傷じゃが、生きているそうじゃ」
なるほど。まさに略奪者にふさわしいのかもしれないな。それってつまり魔法を奪われたということなのだろう。相手を殺さないのはよくわからないが……自身の存在をアピールするためか?
「しかし私の方では知らなかった情報ですね。ということは他所の領地ということですか?」
「察しがいいのう。そうじゃ、これはワシの古い友からのものじゃ」
「それを私に話して如何するおつもりでしょうか?」
「決まってるじゃろう。お主に『プレデター』を捕らえてきてもらうためじゃ」
やっぱりそういう話か。嫌な予感はしてたけどさ。皆俺をいいように使いすぎじゃない?俺は基本的にラノベ主人公並に平和を愛するの。バトルとは無縁でいたいのだよ。よし、断ろう。そう思いながら口を開く前にお祖父様は言った、
「ここでお主が動かねば、次はワシらが狙われるじゃろうな。貴族の中でも一番魔法を使えるのじゃからな」
「でしたらご自分で動かれてはどうですか?」
「ワシでは勝てないから言うとるんじゃ。むろんベクトルでもな」
「でしたら私でも無理では?」
お祖父様と父上が無理なら俺も無理だろうと言うと首を横に降って答えた。
「お主なら勝てるからこそ話しているのだ。噂ではどうやら『プレデター』は奪った相手の力を使えるそうじゃ。ここまで話せばわかるじゃろ?」
「この剣ですか」
手元にあるお祖父様から貰った剣。『ゼロ』は魔法を完全に無効化できるので、確かにいくら魔法を使えてもさほど問題ではないが……しかし気がのらない。何故こんな大切な時期に働かねばならないのか。いや、本当に面倒だ。アリスが絡まないと途端に俺は面倒になってしまう。全てはアリスありきなのだ。だから断るつもり満々ではあるが、しかし放置して面倒になっても困る。本当に厄介事は次から次に降ってくるものだ。いっそ悪人を見たらすぐに殺すべきか?いや、それではただの殺人者だ。殺すのに抵抗はないが、アリスを抱くのに汚れたままではカッコ悪いだろう。だからこそなるべくクリーンであるべきなのだ。
「はぁ……わかりましたよ。倒せばいいんですね?」
「ああ、頼むぞ」
「代わりにお祖父様には褒美をきちんと頂きますからね」
「よかろう。なんでも渡そう」
「随分と気前がいいですね」
「可愛い孫の頼みじゃからな」
「頼まれているのは私なんですがね」
全く、どうしてこう俺は戦場に向かう機会が多いのだろう。厄介事を起こすスキルや魔法でも存在するのだろうか?いや、スキルはゲームみたいなのでないが、それでも厄介事の魔法みたいなものはありそうだ。
さて、倒すとは言ったけど……相手の実力がどの程度なのかにもよるな。魔法を無効化できたとしてもそのあとの肉弾戦でどこまでやるのか。それにもしかしたら魔法を無効化しても使えるものがあるかもしれない。そういうイレギュラーをいくつか考えてから最短で倒すための道順を組み立てる。こうして最初にある程度ビジョンを持っておかないと後で面倒だからね。そうしてしばらくシュミレートしてから俺はお祖父様に聞いていた。
「殺すのはNGなんですよね?」
「最悪は構わない。じゃが、出来れば生きて捕らえて魔法を元に戻す方法を吐かせてほしいのう」
「わかりました」
「そうそう、それとこれは話しておかねばならないが……『プロメテウス』も似たような力を持っておるから気をつけるのじゃ」
「そういえばお祖父様も戦ったことがあるとか」
「戦ったとは言えんの。なにしろワシは逃げたからの」
この怪物が逃げる程の存在。やはり『プロメテウス』という存在はラスボスになり得るのだろう。全く、厄介極まりないが、片付けないとアリスとの平和な日々は訪れないのだろう。ならばこそきちんと片付けて早くアリスとイチャイチャしよう。そのためにまずは『プレデター』の処理だな。魔法を奪う力を持っている存在。これまでの誰よりも強いそれを倒さないと先には進めない。まあ、負けるつもりはないけどね。アリスとのスローライフのためにはこの程度の障害は余裕で越えないとね。結婚式も間近に迫ってきていよいよ婚約者という関係も終わりに近づいている。夫婦になるためにやるべきことをきちんとやって、そして堂々と結婚式を迎えようと思うのだった。
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