第69話 騎士団長の息子は婚約者と下見する
「ここですか?」
数日後、時間を作りアリスを孤児院の隣の教会に連れてくると、アリスは微笑んで言った。
「いいと思います。綺麗な教会ですし、それにエクスと結婚式が出来ることが私にとっては何よりの幸せですから」
「そうか。ありがとうアリス」
あっさりと了承を取れた。まあ、拒否はないとは思っていたけどね。アリスとの結婚式をやるにも色々と準備はあるけどそれでもアリスの希望にできるだけ添えるようにしたいのだ。
「じゃあ、神父さんとシスターさんにも会っておこうか。ついでに子供達にも手伝ってもらうかもしれないからね」
「はい。にしてもエクスが孤児院に行ってたなんて驚きです」
「これでも子供は好きだからね」
そう言いながら孤児院の前に着くと俺に気付いた子供達が集まってきて聞いた。
「エクス様。その人がいつも話してる婚約者の人なの?」
「そうだ。可愛いだろ?でも俺のものだからダメだがな」
「もう、エクスったら子供の前でそんなこと言わないでください」
恥ずかしそうにしつつも嬉しそうな表情を浮かべるアリスにほっこりしていると、シスターさんが近づいてきてアリスに挨拶をする。
「初めまして。この教会と孤児院でシスターをしてますレベッカです。気軽にシスターとお呼びください」
「初めまして。エクスの婚約者のアリス・ミスティです」
「存じております。お話はよくエクス様からお聞きしています。大変仲がよろしいと」
「そ、そうですか」
シスターの言葉に頷いてからアリスはシスターを見てから少しだけ心配そうにこちらを見たので、それがアリスの軽い嫉妬だと気付いた俺はすかさずフォローする。
「シスターには他に想う殿方がいるから、俺はお呼びじゃないんだよ。だから心配しなくてもいいさ」
「そ、そうなんですか?」
その言葉にシスターはくすりと笑って言った。
「はい。エクス様は大変魅力的な方ではありますが、私には大切な人がいますから。それにこの孤児院の子供達も私もアリス様にお会いする前からエクス様の熱烈な想いを聞いておりますので、何の心配もいりません」
「というわけだ。納得できたかな?」
「元から信じてますよ。ただその……少しだけ恥ずかしいですが」
まあ、そりゃ本人がいないところでノロケていたならそう感じるのも無理はないだろう。アリスのいないところで俺がどれだけノロケているのか。答えはそこまで多くはないが、こういう領民には俺とアリスの仲を広めて欲しいので積極的に話している。それも一方的な情報を与えるだけでなく、端的な情報からたどり着けるようにしているので、かなり話は広まっているだろう。お忍びデートもこれで捗るというものだ。皆見ない振りをしてくれるだろうからね。悪い虫が減るのとデートで楽にいけるのはありがたい話だ。
「そうそうシスター。アリスと話して結婚式をここでやることにしたから神父さんに話をしたいんだけど……」
「承知しております。ただ少しだけ出掛けているのでもう少しだけお待ちいただけますか?」
「構わないよ。アリスには少しだけ退屈かもしれないけどいいかな?」
「はい。エクスと一緒なら」
嬉しい言葉に微笑んでから神父さんの帰りを待つことにする。すると、ある女の子がアリスに聞いた。
「ねえねえ、お姉ちゃんはエクス様の婚約者なんだよね?」
「そうですよ」
「婚約者って具体的にはどういう関係なの?」
「えっと、それは……」
少しだけ言葉に迷うアリス。まあ婚約者というもの自体貴族的なものだしね。わからなくても仕方ないので俺はお茶を飲みつつアリスの答えを期待して待っているとアリスは言葉を選びながら言った。
「結婚を前提とした男女の仲でしょうか?」
「好きな人とのことじゃないの?」
「絶対にそうとは限りませんよ。私のように好きな人と結ばれることもあれば、全く知らない他人とそうなることもあります」
「そうなんだ。お姉ちゃんは幸せなの?」
その言葉にアリスはしっかりと頷いて言った。
「はい。これ以上ないくらいに」
その表情がまたよくて、写真で撮りたいくらいだが心の動画フォルダーに保存することで決着する。なかなか心の中の悪魔さんには勝てないものだ。やっぱり人間正直に生きるのが一番いいのだろう。
それにしても分かっていることでも改めて口にされるのはなかなかいいものだな。やっぱり言葉にして初めて意味を持つこともあるものだ。言霊と言って言葉には力が宿るというがあながちな間違いでもなさそうだ。俺としてもきちんと言葉にしてアリスに伝えてはいるが、半分くらいは自分の中でストップをかけているからね。全部を言葉にしたらアリスでも受け止めきれないかもしれないしね。
逆にアリスからの言葉ならなんでも受け入れられそうだ。やっぱり好きな人からの言葉にはかなりの力がある。良くも悪くもアリスから影響はかなり受けているからね。やはり俺からももっとアリスに本音を伝えていくべきだろうか?でもそれで面倒くさがれたら少しだけショックと思いつつアリスが子供達と楽しそうに話しているのを見守るのだった。
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