第70話 騎士団長の息子は手加減に苦戦する

「ん……」

「エクス?どうかしましたか?」


その気配を感じて俺は少しだけため息をつきそうになりつつ笑顔で言った。


「ちょっとね。表が騒がしいから止めてくるよ」

「表ですか?」


きょとんとするアリスに微笑んでから俺はシスターに視線を向けると小声で言った。


「神父さんが表で襲われてる。決して外に出ないように」

「え……?」


唖然としてからこくりと頷いたシスターを見てから表に出ると、予想通り神父さんを何人かの男達が囲っているのを見てからため息をついてそこに近づく。


「お楽しみのところ悪いけどここで騒ぎを起こすのは感心しないな」

「あん?お前は……そうか、お前が例の奴か」

「え、エクス様……」

「丁度いい。お前本人が出てくるとは思わなかったがな」


そう言いながら俺に近づいてくるリーダー格の男。やけに大柄な男が見下ろしてくるのはかなり不愉快になるが男は楽しげに言った。


「お前を誘き寄せるためにここまで来たんだが……まさか本人がお出ましとはな」

「俺に何か用か?」

「ああ。お前を倒せばたんまり金が貰えるそうだからな」


まあ、そんなことだろうと思ったさ。世の中金、金、金。本当に人間というのは金がないと生きていけないものだ。貴族として転生してなければ金の価値でそこまで考慮することもないのだろうけどさ。にしても……


「お前らここで何をするつもりだったんだ?」

「決まってるだろ?このオッサンを殺してからガキを売りにだす。そんでもって価値がありそうな女は有効活用さ」

「オーケー。当たり前の回答をありがとう」


まさかこんな形で仕掛けてくるとは。確かに治安が良くなっても人員は足りていないのでここで騒ぎを起こしても十分逃げ切れるだろう。しかし、そんなことをさせるわけにはいかないので俺は面倒になりながら聞いた。


「一応聞くけど、尻尾巻いて逃げるつもりはないか?そうすれば俺も無駄な労力を使わずに済むんだが」

「へへ、そんな強気でいいのか?」


見れば神父さんの首に剣を突き立てる残りの男達。やはり人質にとってきたか。面倒な。後ろの方では子供の一人が飛び出そうとしているのをシスターが抑えているようだが、それも時間の問題だろう。なら、一番早いのは実力行使だろう。


「後悔するなよ?」

「あん?――なっ!?」


まずは目の前の男を殴り飛ばしてから神父さんに向けられた剣を叩き折る。その怯んだ一瞬でもう一人を片付ける。


「こ、この!化け物め!」


そうして残ったうちの二人が剣で襲いかかる前に無力化すると残る一人がその出来事に呆然としているのを見てため息をついて言った。


「このまま投降するなら命は取らないがどうする?」

「な、なんだよこりゃ……お前一体なんなんだよ!?」


そう言いながら襲いかかってくるので俺は手刀でそれを黙らせてから地面に転がしてから最初に殴った男の姿がないのに気づく、と同時に反射的に横に避けていた。


「あー……くそ。いてぇな」


首をゴキゴキ鳴らしてそう言うのは先程のリーダー格の男だった。その男の放った拳で地面に小さな窪みができてることと、超絶手加減したとはいえ、それでも初めて耐えた人間に少なからず驚きつつ言った。


「お前、魔法が使えるな?身体強化……いや、筋肉増強か」

「ああ、その通り。よくわかるな」

「観察眼はあるからな」

「そうかい。しかしお前は一体なんなんだ?その化け物みたいな力……ただの貴族のボンボンじゃねぇな」

「どうやら雇い主はそこまで細かい情報はくれないみたいだな」


おそらく使い捨ての駒に使ったのだろう。それがわかっているからか、男もため息混じりに言った。


「たっく。うますぎる話だと思ったんだ。まさかこんな化け物相手にするとはとんだ厄日だ」

「そうでもないさ。むしろここで何かした後ならこんなに優しくは扱ってないさ」

「冗談に聞こえねぇな。ああ、たく。ま、いいけどよ。どのみちここで終わりなら最後に少しでも抵抗してやるよ」


そう言いながら構える男に俺は殺さない手加減で少しだけ悩んでしまう。常人の手加減より少しだけ上でなおかつなるべく低め。そんな細かい調整なんて面倒なことこの上ないが、いい加減抑えるのも限界そうなシスターの姿を見てから時間がないことを悟って俺は最後に聞いた。


「いいんだな?」

「よかないさ。だが、俺の運がここまでなら最後にこんな化け物に殺されることを誇りにするさ」

「潔し。ただ……無意味な覚悟だな」


踏み込んでマックスのパワーで殴ってきた男のその一撃を片手で防いでから俺はその手を捻ってから地面に叩きつける。思いの外勢いよく地面にめり込んだ男の姿に少しだけ手加減をミスったことに気付いたが、それでも死んではないし多分腕もそこまで酷くはないのでセーフだろう。念のため持ってきたロープで男達を縛り上げてからこの騒ぎを聞きつけてくるはずの騎士を待つことにする。しかし最近は荒事に慣れすぎている自分がいるのが怖いね。本当に脳筋キャラになりそうなことに絶望しながらため息をつくのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る