第65話 騎士団長の息子は親友と話す
「それで、何故俺はこんなところにいるんだ?」
不満を垂れ流しながらそう言うと同じ馬車で国民に手を振りながら笑顔を浮かべているリンスが言った。
「君が僕とシンシアの護衛に適任だからだけど?」
「す、すみません騎士様。でもリンスが護衛なら騎士様が適任だと言うので」
恐縮しながらもそう言う王女様。隣のリンスの手を握ってなんとか国民に微笑むその健気な姿を見てリンスが満足そうにするのがなんとなく頭に来るが、まあ仕方ないと割りきることにする。今回は婚約前の御披露目をいうことで馬車で国民に見えるように回っているが馬車の警護が俺だけなのは本当にどうかしてるとしか言えないだろう。
「そういえば、シンシア様も確か卒業と同時に嫁入りするとか。本当にリンスでいいんですか?」
「は、はい。リンスはとても優しいですから」
そう言いながらぽっと顔を赤くする王女様。なるほどどうやら俺は地雷を踏んだらしいと察するとリンスは微笑んで言った。
「エクスも卒業したらミスティ嬢と結婚するんでしょ?もし良かったら一緒に式をやろうか?」
「冗談。主役は一人で十分だ」
「ふふ、同感だね」
この場合の主役はアリスのこと。まあ、リンスには王女様なんだろうけど。知り合いと結婚式を同じにするなんて絶対に嫌だ。その日の主役はアリスじゃないと満足できない。男なんて結婚式では女の飾りだ。
「そ、そういえば騎士様――」
と、何かを訪ねようとした時だった。俺は接近する何かを察して手元のお祖父様から貰った剣『ゼロ』を少しだけ抜いてから収めた。するとそれはやはり魔法だったようで霧散してから風に舞っていった。最近知ったことだがこの『ゼロ』の特性は俺から約3キロ圏内なら魔法を完全に無効化できるようだ。ここまでの一連の動きを見ると俺がおかしな行動をしただけに見えるがリンスは察したように聞いてきた。
「エクス。攻撃かな?」
「ああ。魔法だったみたいだな」
「あ、あの……騎士様?」
ふと、見ると王女様がよくわからいようにキョトンとしていたので俺はリンスに視線で説明しろと促すとリンスは笑って言った。
「大丈夫。エクスは僕らを守ってくれんだ」
「な、何かあったのですか?」
「ちょっとね。でも解決したから大丈夫だよ。それよりエクスに何か聞こうとしてなかった?」
その言葉で王女様はハッとしてから頷いて言った。
「そうでした。騎士様の婚約者さんに今度お会いしたくて。出来ればその場を設けて欲しいと」
「お、シンシアが他人に興味を持つなんてね」
「も、もう!リンスったら。私だってちゃんとお話できます。できればその……お友達になりたいので」
その言葉に少しだけ考える。王女様をアリスと会わせるメリットはあんまりない。とはいえ断るのは失礼だし、アリスの害にならないならいいかな?
「わかりました。検討しましょう」
「ありがとうございます。そういえば騎士様のその剣……」
「そういえばエクスが偉くいい剣をさしてるね」
「これのこと?」
手元の『ゼロ』を見せながら俺は説明する。
「我が家の家宝だよ。この剣は魔法を無効化できる」
「ま、魔法を……」
「それは凄いね。でも魔法の無効化ということは君の身体強化魔法も使えなくなるの?」
「本来であればね」
そう、父上が躓いたのは強力な無効化故に自身の魔法をも無効化してしまうというもの。だが、これはあることで解決できる。この剣は使用者の心の持ちようによってその力を変える。つまり変わらぬ不動の心を持っていれば自身の力は無効化されずに使うことができる。父上は任務のたびに気持ちを切り替えるようなのでそれが出来ないようだ。俺はいつでもアリスのことを考えているので何の問題もない。やっぱりアリス=正義だよね。
「魔法の無効化……本当に魔法を使える人間を殺せる武器だね」
「ま、そこまで多用はしないさ。アリスのことを守る以外に力を使いたくないからね」
「君らしいや」
そんな俺とリンスのやり取りを見て王女様はくすりと笑って言った。
「なんだかリンスと騎士様は凄く仲良しなんですね」
「そうだよ」
「違う」
思わず同時に答えていた。するとリンスは笑って言った。
「酷いな。これでもそこそこ仲良しだと思ってたけど?」
「そこそこねぇ……どうせなら親友くらいがいいさ」
「おっと。君がそんなことを言ってくれるなんて嬉しいよ」
「だいたい男の友情にはそこまで価値はない。ほどほどでいいんだよ」
ベタベタした友情じゃなく、分かってる同士のものでいいんだ。それに仲良くなるならアリスとであって男と仲良くする趣味はない。男の友情なんて広く浅くでいいんだ。それに俺はアリス以外には基本的に興味が薄いので仕方ない。だって興味がないんだもん。アリスがいなければこの世界に無干渉でいたかもしれない。それくらい興味が湧かない。アリスのことになると集中できるのにね。そんな風に雑談をしながら警備の仕事を全うする。早くアリスの元に帰ろうとそう思いながら仕事を貫徹するのだった。
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