第57話 騎士団長の息子は婚約者と約束をする
「ふぅ……やっぱり緊張しますね」
両親との挨拶イベントの後。送りの馬車でアリスは微笑んで言った。
「お二人とも優しいのでついつい甘えてしまいそうになります。私もこれからエクスのお嫁さんに相応しくなるように頑張ります!」
「ありがとう。アリスにそう言って貰えると嬉しいよ。でもアリスはそのままでの可愛いからありのままでいてね」
「エクス……はい!」
そう笑うアリスはやっぱり可愛いがなんだか妙にテンションが高いように感じる。これはこれで可愛いがなんとなく額に手を当てて熱を測ってみる。しばらくしても体温はそこまで高くないようで心地よい柔らかさが伝わってくるだけだった。
「あ、あの……エクス?」
「ん?ああ。ごめんごめん。ついね」
「熱を測ってたのですか?」
「なんだかアリスがいつもよりご機嫌だから気になってね」
「そう……かもしれません。私、こうしてお義父様とお義母様に会ってからようやく前に進めたように感じるのです」
「前に?」
そう聞くとアリスは頷いて言った。
「エクスが私のために色々やってくれているのは知ってます。でも私には何も出来なくて。だからこうして私にも出来ることがあるって分かって嬉しいのです」
そうか。アリスはそんなことを気にしていたのか。確かに尽くされ過ぎると逆に不安になるかもしれないな。うん。反省反省。もっとアリスにも充実感が持てるようなことをお願いしないといけないな。とはいえ、アリスからなら何をされてもご褒美になっちゃうんだよなぁ。例えばアリスにご飯を食べさせてもらう。これはもはやご褒美以外の何物でもないが。アリスにとってはあまり実感がないことだろう。
だとするとあとアリスにお願いできて充実感が持てそうなことは……
「子供の名前かな?」
「ふぇ?こ、子供の名前?」
あ、いけない。思わず口に出していた。困惑するアリスに俺は微笑んで言った。
「いや。実はアリスと結婚した後にすぐに子供を作ろうか迷っていてね。それに妊娠とは女性にとってとても大変なことだからアリスの調子が良くないといけないし、それならいっそのことアリスとの子供の名前だけでも先に候補を考えておこうかと思ってね」
「エクスと私の子供……えへへ……」
何やら妄想に入ったアリス。うんいいね。こういう乙女な妄想は大好きです。アリスがこうして夢見心地みたいなので、俺は少しだけ考えてから聞いた。
「アリスは俺達の子供につけたい名前ある?」
「あ、えっと……その前に子供は巡り合わせと聞きますので、私達の元に来てくれるか不安です」
「大丈夫だと思うよ」
アリスの両親に不妊体質はいないし、うちもかなりヤンチャというか父上がかなりハングリーな性欲をお持ちだそうなので息子の俺も大変そちらの方は恵まれているはずだ。何ラウンドまで行けるか。いや、その前に初夜を迎えて俺がどこまで理性的にいられるかによるかな。アリスの痛みを和らげてあげながらいかに子供を作るために種を撒けるか。厳しい戦いになりそうだ。そんな俺の想いはしらずにアリスは俺の言葉にキョトンとしてからくすりと笑って言った。
「なんだか不思議です。エクスが大丈夫だって言うと大丈夫な気がします」
「アリスと俺の子供だと女の子ならアリス譲りの美少女になると思うんだ」
「じゃあ、男の子はエクスみたいな格好いい美男子ですか?」
「アリスの可愛いさがあるから中性的な子かもしれない。正直俺はあまり容姿は良くないからね」
「そ、そんなことないです!」
なんだか予想外の否定に思わず驚くとアリスははっとしてからあわあわしながら言った。
「あ、あの、えっと……エクスはすごく格好いいです!私は凄くエクスが格好いいと思います。まるで物語の白馬に乗った王子様みたいな格好いい人です!」
「そうか……ありがとうアリス」
こうして好きな人からそう言われるとかなり嬉しいものだ。エクスさんは乙女ゲームでは最下位だけど、アリスの中では一番なら問題ないだろう。それにしても白馬の王子様か……
「ねえ。アリス」
「な、なんですか?」
「一つ約束しようと思ってね。アリスが困った時やピンチの時は俺は物語の白馬の王子様みたいに颯爽と救いにくるから。まあ、少しだけ不格好になるかもしれないけど」
「ありがとうございます。エクス」
嬉しそうに微笑むアリス。馬術はあまり得意ではないけど今度白馬を取り寄せないと。それから2人乗りのコツを掴んでアリスを乗せられるようにしないとな。一応騎士団長の息子で貴族だから馬術くらいは出来るが、なんと言っても自分で走った方が早いからなぁ……でも、アリスの理想に近いように馬術をマスターするのはいいことだろう。王子様っていうのは柄ではないけど、やっぱりその称号に相応しくなる必要はあるだろう。まあ、俺が馬術を極めたらただの戦力にしかならなそうな予感がひしひしとする。うん、まあ、そこは見た目重視で。なんと言ってもやっぱり格好いいのはそういう努力をする人間だろうからね。
そんなことを話しつつ送るのだった。
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