第58話 騎士団長の息子は王子に聞く

「なあ、リンス。どうやったら物語の王子様になれるかな?」


そう聞くとリンスは苦笑して言った。


「少なくともエクスは物語の人間並みではあると思うよ。君ほど常識はずれの存在はなかなかいないからね」

「そういうジャンルは嬉しくないんだよ……この容姿のエクスさんのことを愛してくれる愛しい婚約者のためにどうやったら白馬の王子様っぽくなれるのかが知りたいんだよ」


どうやっても俺が馬に乗るのは戦いのためにしか見えない。パワーキャラの自覚があるからこそ品格がありそうな王族様に聞いたのだ。


「というか、悠長に学校来てていいのか?婚約やらなんやらで忙しいんだろ?」

「まあね。でも折角なら学校にも来ておいて親しみのある王子様を演じないとね」

「腹黒めぇー」

「君に言われたくないよ。そうそう。こないだの騎士団の話は覚えてる?」

「あの戯言がどうかしたのか?」


そう聞くとリンスは苦笑しながら言った。


「メンバー集めの進捗を陛下が聞いてきてね」

「期限まではまだ日があるだろ?」

「早めに把握したいんだろうね」

「そもそも、あの話どうしても受けなきゃダメか?俺必要ないだろ」

「君という存在の大きさを考えると無視はできないだろうね。いかに君が無関心を貫いても国に属する以上はなんらかの縛りはあるよ」

「面倒だな……いっそのこと自分で国を作るか」

「それは皆驚天動地だろうね。でも、そうなると君の婚約者は王妃様になってしまうよ?」

「じゃあ、ダメか」


アリスに王妃なんていう面倒な役を押し付けたくはない。折角ロスト子爵家に嫁ぐために準備を始めたのに無駄になるのは良くない。それに今のうきうきしているアリスを見てるのは楽しいので邪魔はしたくない。


「ま、もし本気で国を作るつもりなら協力は惜しまないけどね」

「随分あっさりだな。王様みたいに止めないのか?」

「残念ながら僕にはそんな力はないしね。それに友人がやりたいことに水をさすのは好きじゃないし、第ー本気で君が望むなら友好的な関係を早くに作らないとね」

「本当腹黒だよなぁ」


しかし、国を作るか……想像以上に大変なんだろうけど、いざとなったらやってみるか。まあ、俺としては騎士団長の位でアリスとイチャイチャしていれば問題はないんだけどね。アリスとの時間……プライスレス。煩わしいストレス社会というのはどんな世界でも同じなのだろう。壊せる力があるなら壊してしまいたいが、その労力が面倒なんだよな。そんなことをするくらいならアリスとの時間をもっと増やす。結局一番はアリスだからな。どうやったってそこは覆らない。


「そういえばあの姫様とはどうなんだ?」

「シンシアのこと?彼女ならこないだ会い行ったけど僕といるときは顔赤いんだよね」

「ベタ惚れかよ」

「君には言われたくないな。そうそう、マナリアさんが君によろしくと言っていたよ」


マナリア?誰だっけと思い記憶を探すが、アリスの情報が多すぎて見つけるのに手間がかかる。アリスの記憶なら狙ったものは一発で出てくるのだけど、流石に知人程度だと少しだけ時間がかかる。マナリア……そうか、サルバーレ王国の姫様の姉の方か。なんというかアリスが関わらないと本当に人の顔を覚えられない。


「よろしくも何も今の今まで忘れていたんだが」

「まあ、そうだろうね。そういえば君に異様に興味を持ってたけど惚れてるとか?」

「冗談。多分俺が身分の差を越えてアリスをゲットしたから興味があるだけだろ。それにアリス以外から好意を向けられても困るだけだ」

「困るとはオブラートだね。本当は嫌悪感が適任じゃないかな?」

「否定はしない」


アリス一筋の俺には他人から好意を向けられる理由はない。もしあるなら、それは利益目的の曇った好意。そんなものは俺とアリスには必要ないのだ。それにアリス以外の女を愛すると考えるだけで嫌悪感が強いのにそれを形にされたらガチで迷惑すぎる。


「僕は君ほど婚約者に一途になれないんだけどコツはあるの?」

「コツも何もこれでも抑えてる方なんだけどな。アリスへの好意を全部出したら流石に引かれるかもしれないからな」

「自覚はあるんだ」

「まあ、いつかはそれを乗り越えてくれると思うけど心の準備が必要だろうからね」


自分でも他人より愛が重いことは自覚がある。でもそれは決して悪いことではない。確かにそれを暴走させるのは良くないけどようは使い方だ。それさえ間違えなければ問題ないだろう。自分本意なのは良くないが、相手のことを考えて適切な距離とタイミングを意識して好意を向ければそれは間違いではないだろう。


道具と同じようは使い方なのだ。


「そんなことより王子様っぽくどうやったらなれるかな?」

「本物に聞くこと?」

「コツはある?」

「強いて言うなら、教育の賜物なのかな?」


そんな風にしてアリスのいない時間を暇潰しする。授業内容はもちろん頭に入ってるし迷惑にならない声量で話しているので問題はないだろう。はぁ、早くアリスに会いたい。アリスプリーズ!






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