第50話 騎士団長の息子は蹂躙する
夜の海がどこまでも深く広がる中。とある一隻の船にてそれは行われていた。大量に船から降ろされる荷物は厳重に封がしてあって中身は見えないが、男達は皆ガラの悪い連中ばかりだった。
そんな中で厳ついスキンヘッドの男と先程夜会の会場にいた貴族であるフレデット伯爵は二人で密談をしていた。
「これが今回の分だ。確認してくれ」
「毎度どうも」
「しっかし、貴族さんがこんなに堂々と俺らと取り引きしてていいんかね?」
「信用できる人間はそう多くない。私しかいないのだよ。それに他の馬鹿貴族は皆揃いも揃って姫様の婚約の夜会で大盛り上がりだ。邪魔する奴はいない」
「ふは、やっぱりあんたも俺らと同じ小物だな」
「全く、同感です」
そう言ってから俺は近くの男を昏倒させてからそちらに近づくと、それに気づいたのか船の船員が全員で俺を囲っていた。
「誰だテメェ!」
「通りすがりの騎士団長の息子ですよ」
そう言ってから俺は視線をフレデット伯爵に向けると笑顔で言った。
「忠告を聞き入れては貰えませんでしたか」
「……追ってきたのか?」
「まさか。その必要はありませんよ。何故なら最初からここで取り引きをすることは知ってましたから」
「じゃあ、何をしに来たんだ?」
「決まってます。お仕事ですよ」
俺の言葉に苦い顔をするフレデット伯爵を置いて、スキンヘッドの男は笑って言った。
「どうでもいいが、お前さん俺らの敵か?」
「ええ、そうなりますね」
「この状況で強気なのは評価できるが、お前さんどうせ貴族の坊っちゃんだろ。無駄な正義感で痛い目みるのはどうかと思うが」
「ま、損なのはわかってますよ。ですがね……」
俺は一気に表情を消すと言った。
「お前らのせいで、俺はアリスとの貴重な時間を無駄にしちまってるんだよ。だからいい加減消えてくれ」
「……やれ」
そう言ってから背中を向けるフレデット伯爵とスキンヘッドの男。それと同時に何人もの男が武器を持って襲いかかってくる。夜の月明かりがほとんどない中での乱戦。常人ならかろうじて見えているかどうかのそれを俺はハッキリとした視界で対処する。最短ルートで二人の元へ、他を無力化してから進む。ある者は顔面に拳をいれて黙らせ、ある者は地面に叩きつけて落とす。海に落とすと面倒なのでなるべく陸地で、気絶をさせながら追い付くと、驚いたように目を見開く二人に笑顔で言った。
「逃がすとお思いで?」
「なっ……馬鹿な!どうやってここまで」
そう言ってから後ろを確認して唖然とするフレデット伯爵。先程いた男は全員一瞬で無力化されてしまったのだ。当然の反応をするフレデット伯爵とは相対してスキンヘッドの男は目を細めて言った。
「なるほどな。お前さん、あの方が言っていた『ヘラクレス』……いや、その息子か」
「ヘラクレス?」
「お前さんの父親のことさ。あの方……俺らのボスの『プロメテウス』の唯一障害になりそうな存在なんだが、父親が化け物だと息子も化け物になるみたいだな」
「の、呑気に話してる場合か!」
「焦っても何も変わらないぜ。何しろ俺らは今こいつに生殺与奪を握られてるんだからな」
父上を知ってるのか?それに『ヘラクレス』に『プロメテウス』って、もしかしなくても、父上が言ってた勝てない相手はその『プロメテウス』に繋がってるのだろうか。だとしたらヤバいな。余計に面倒な展開に首を突っ込んだかもしれないと思っていると、スキンヘッドの男は懐からナイフを取り出して言った。
「ま、勝てないとは思うが一応挑んでみるか」
「構わないが、その前に聞かせろ。お前らは
「妙なことを聞くのな。お答えすると東の大陸の大半だ」
「そうか。ありがとう」
そう言ってから俺はスキンヘッドに踵落としを決めてから気絶させる。残ったフレデット伯爵はこちらを化け物でも見るように見てから逃げようとするがその前に気絶させてしまう。そうして残ってる賊を全員のしてから縛りあげてフレデット伯爵とスキンヘッド、そして賊数名と薬の箱を持って城を目指す。何往復かすれば終わるだろう。
しかし……面倒な展開になりそうな予感しかしない。前に父上が話していた、祖父以外に勝てない人物。それがラスボスのように暗躍しているこの状況。ハッキリ言って最悪だ。俺は静かにアリスとイチャイチャしたいのに、やれ乙女ゲームやら、やれバトル漫画みたいな展開やら面倒なことばかりが起こる。
いっそ全部放置して世界の終わりを見てもいいが、アリスと幸せに余生を過ごすまでは滅んで欲しくはない。それにアリスと俺の子供にこれ以上面倒なことを残すわけにはいかない。そうなると必然的に俺は全てを片付けなきゃいけないわけでして、つまり何が言いたいかと言えば……面倒くさい。その一言につきる。
まあ、これから先『プロメテウス』とやらがアリスを害する可能性はかなり高いわけで、俺はアリスの敵を滅ぼす義務がある。まあ、なんにしても俺はアリスを絶対に守ってみせる。それだけはハッキリと言えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます