第40話 騎士団長の息子は婚約者に誓う

早いものでお忍びのデートも終盤にさしかかっていた。花畑をみながらアリスは呟いた。


「1日がこんなに早いなんて知りませんでした」

「同じ気持ちだよ」

「はい……今日はいつもより長くエクスと一緒にいれました。凄く充実した1日でしたが、こんなに帰りたくないと思うのはワガママなんでしょうか」


そう言ってからアリスは俺に近づいてくると寂しそうに微笑んだ。その表情を見てから俺は思わずアリスを抱き締めていた。


「え、エクス?」

「ワガママなんかじゃないよ。そう思ってくれたなら今日俺が頑張った甲斐があったよ」

「エクス……」


今日1日を作るために頑張った甲斐があった。スケジュールの調整中から警護の件。そして目標人物の動向に他の要因の全てを天秤にかけてから行ったことだけど、好評なら次も是非やりたい。こうしてお忍びでデートすると二人きりをより一層意識できるので嬉しくなる。


別にいつものイチャイチャを不満には思ってないがたまにはこういう外での催し物も必要だろう。


学園を卒業するまで1年ないくらいだ。卒業したら俺は騎士団に入りアリスと結婚する。婚約者という関係から夫婦へと関係も変わってしまう。そうなる前に少しでも、これまで無為にしてきた時間を補うようにアリスと一緒にいたい。


まあ、恋人という関係を楽しみたいのだ。プラトニックな関係?大いに結構。そういう恋人がいてもおかしくない。むしろその方が浮気の可能性を消せていい。


まあ、アリスが浮気をする可能性はかなり低いが、仮にしたとしても俺はアリスには何もしないよ。うん。アリスにはね。相手にはこの世に生まれたことを後悔しながら無惨に死んでもらうか、永遠に死んだ方がマシという目にあわせてやるつもりではある。


なんだか俺がヤンデレみたいだけど、俺は破壊的な愛は決して求めてない。求めるのはアリスの幸せ。だから自分勝手な想いで動くつもりは……多分ない。断言はできないよ。人間だもの。まあ、アリスが俺以上に一緒になりたいという男がいたら最悪アリスの幸せのために引き下がるつもりはあるよ。


まあ、そのあとに首を吊って死ね……るのかな?いや、この身体スペック高すぎてどうやったら死ねるのかわからないんだよね。多分心臓さえ潰せば大丈夫なはずだけど心臓まで剣が刺さるのか気になる。そんな化け物みたいなことはないはずだけど、まあ、いざとなったらそういう決意はある。


「ねえ、アリス。俺はね、アリスの全部が好きだよ」


可愛いところ、我慢しちゃうところ、欠点も何もかも含めて全てが愛しい。きっとこんなに人を好きになることは2度とないだろう。それくらいに俺はアリスが好きだ。


「だからもっと、俺に頼っていいんだよ」

「でも……私、エクスに迷惑しかかけられなくて」

「迷惑なんていっぱいかけてよ。全て受け入れるから」

「……本当に私はエクスに頼っていいのですか?」


そう聞いてくるアリスに俺は頷いてから騎士が誓うように地面に膝を立てて、そっと手を握って言った。


「何年だろうと、何十年だろうと、例え産まれかわっても必ずアリスの側にいるよ。絶対にこの手を離さない。アリスが死ぬまで、いや死んでも絶対にこうして手を離さない」

「私も……エクスの隣に、側にいたいです……」

「ああ、ずっと一緒だ」


そうして俺はこの日改めて誓うのだった。何があろうと、例え乙女ゲームが俺達の前に立ち塞がっても必ずそれらを取り去ってアリスのことを守り抜くと。アリスの側から絶対に離れないこと。


そのためには情報と力と権力が必要だ。だからこそ手駒を増やしてもっと強くなる。この世界で最強の、いや、誰も立ち塞がることがないレベルまで必ず強くなる。例えどんな魔法を使える奴に出くわしても、例え予想外の事態が起きても必ずアリスを守れる強さ。


無駄に力をひけらかす必要はない。重要なのはこの世界の基準とそれを壊せる存在の把握。それに転生者のようなイレギュラーの存在の吸収だろう。


イレギュラーは殺すのが手っ取り早いけど、知識を与えてまた同じ世界に転生されたら面倒だ。場合によっては転生のメカニズムとかも把握する必要があるかもしれないがこれは急ぐ必要はない。


最優先はアリスと俺の障害になり得る存在の排除。やはり乙女ゲームのヒロインなんかは特に注意が必要だろう。初期ヒロインはこちらに一応取り込んだ。あとは他の続編とかのヒロイン次第だけど、こちらはストーリーが不明だからいつからイベントがあるのか、どんなイベントにアリスが絡んでくるのかが問題だろう。


まあ、今日中には初期攻略対象の排除は完了する予定だし、その後にでもじっくり考えるべきだろう。攻略対象さえ排除できれば目先の問題は一段落。しばらくはアリスだけに集中できるはずだ。いや、正直アリスをもっと愛でたいけど問題は先に片付けておかないと心置きなくイチャイチャできないからね。


そんなことを思いながら俺はアリスとのデートを楽しんだのだった。




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