第39話 騎士団長の息子は婚約者と向かう
「今日は怖がらせてごめんね」
賊を俺の私兵に任せてからそう言うとアリスは首をふって言った。
「エクスは何も悪くないですよ。私を守ってくださったのですから」
「アリス……」
「それにその……嬉しかったです。お姫様抱っこ」
そう笑うアリス。うん、可愛い。やはり俺のアリスを危険にさらしたことの責任はあとできちんと取ってもらおう。そう思っているとアリスは俺の手を握って言った。
「凄いですね、エクスは。私は黙って見てることしか出来ませんでした」
「そんなことないよ。アリスが側にいるだけで元気を貰えるからね」
「だと嬉しいです」
本当にアリスがいるだけで俺の戦闘力が何桁か上がるからね。もうアリスなしでは生きていけないよ。
「そういえば、私目を瞑っててよくわからなかったんですけど、あの人達は何が目的だったのですか?」
「うーん、多分俺を狙ってきたんだろうけど……」
狙いとしては完全な私怨なのだろう。あの程度のごろつきを雇う金があり、なおかつ俺に恨みをもつ人間というのは一人しか思い当たらない。というか、いつかは仕掛けてくると思っていたがまさかこうも簡単に尻尾をだしてくれるとは思わずに驚いているくらいだ。
誤算だったのは賊の質が低かったことと、アリスの目の前で戦う状況になったことだが、それもアリスをお姫様抱っこする正当な理由になったのでいいだろう。そうか、お姫様抱っこ……
「アリス。最後に行きたい場所があるんだけどいいかな?」
「はい、どこですか?」
「その前にお願いを聞いて貰えるかな?」
「お願いですか?」
「今から何をしても目を瞑っててくれる?」
「えっと……わかりました」
そう言ってから素直に目を瞑るアリス。ここまで従順だと少しだけ不安にもなるがそんなことは口にはせずに俺はアリスを抱き上げて本日二度目のお姫様抱っこをする。
「きゃっ……エクス?」
「このまま連れていくけどいいかな?」
「う、嬉しいですけど、重くないですか?」
「むしろ軽すぎて困るくらいだよ」
ただでさえ華奢なアリスを人外的な筋力を持つエクスさんが抱えるのだからその軽さたるやほとんど重くないレベルだ。アリスが標準より軽いのを差し引いても人一人をお姫様抱っこして余裕なのはやはりおかしいかもしれないと今さらながら思うのだった。
アリスに負担がかからないように慎重に移動する間。アリスは何度か目を開けては俺を見て顔を赤くしているので、意識されているのがわかる。俺をこんなに近くにアリスがいるとついついイタズラしそうになるがなんとか堪える。
そうしてたどり着いた場所に俺はアリスに優しく言った。
「もう、目を開けてもいいよ」
「はい……わぁ!」
見渡すばかりの花畑。女の子なら喜ぶその絵面にアリスが見いってることを確認してから俺は言った。
「この辺で一番綺麗な花畑らしい。アリスと来ようと思ってね」
「凄いです……うちの庭園とはまた別の自然さがいいですね」
「こういう場所はなかなか一人では来づらくてね。それにアリスにはやはり花が似合う」
「そうですか?」
「ああ」
女の子と花というのは最高の組み合わせだがアリスと花畑はそれを越えるものだろう。むしろアリスか眩しすぎて何を組み合わせても至高のものになってしまう。
「あの……ところで私はいつまでこの格好なのですか?」
「うん?降りたいなら降ろすよ。でもいいの?」
「もう、エクスは意地悪ですね」
「そうかな。本音を言えばアリスをこうしてお姫様抱っこするのが楽しくて仕方ないんだよ。だからこれから時折でいいからお姫様抱っこしてもいいかな?」
そう聞くとアリスは少しだけ恥ずかしそうにしながも頷いて言った。
「嬉しいです。エクスに……好きな人にこうしてお姫様抱っこしてもらうのは昔からの夢の一つですから」
「他の夢はなんなの?」
「それは……い、言えません」
「それは残念」
えらく可愛い夢にほっこりしつつも一度地面に降ろすとアリスは少しだけ寂しそうな表情をしたので、俺は即座にアリスと恋人繋ぎすると優しく言った。
「こうして花畑を巡るのもいいでしょ?心配しなくても後でもう一度お姫様抱っこするからね」
「もう、子供扱いしないでください」
「なら、大人の扱いをしてもいいんだね」
「え?」
そうして唖然とするアリスの唇をあっさりと奪うと俺は微笑んで言った。
「もっと大人の扱いできるけど……する?」
「い、いえ……大丈夫です」
「本当に?実はキスにはさらに深い大人のキスというものがあるそうだよ。だからアリスが望むならしたいけど……その様子だと当分先になりそうだね」
先ほどのキスだけでも一杯一杯で、ここでさらに大人のキスなんてワードが出てきたことでアリスの脳はショートしているようだった。真っ赤な顔でうるうるしてる瞳はかなりそそるものがあるけど我慢した。俺はきちんと我慢の出来る男。だからアリスが望まないことはしないのだ。そんなことを考えつつも花畑を満喫するのだった。
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