第37話 騎士団長の息子は婚約者とデートをする
「わぁ……凄い人ですね」
賑わいをみせる市場にそんな可愛い感想をもらすアリスを愛でたくなる気持ちを抑えて俺は言った。
「このあたりはロスト子爵家が管理する領地の一つだからね」
「そうでしたか。あれ?でも確かロスト子爵家の領地ってもっと遠かったような」
「流石アリスだね。うん、元々の領地はもっと辺境なんだけど、ここは今のロスト子爵家の当主、騎士団長の俺の父親が戦の報酬で得た領地なんだ」
かつての戦争で大活躍したそうで、父上はその功績から《戦鬼》と恐れられているそうだ。まあ、本当は姫様との結婚の話や爵位を上げる話があったそうだけど、父上は母上一筋でそれらの話を断って代わりにとある貴族から領地を奪ったそうだ。それがここなのだが、元々この領地はかなり横暴な貴族が領主をしていたそうで、それを見かねた父上がその貴族から領地を奪って貴族としての力を削ぎ落としたそうだ。
なんともヒーローみたいな人だが、実際この領地において、あの人はかなり敬愛されているようで、その息子の俺も何度かお忍びで来ては父上と挨拶をしたものだ。と、言っても前のエクス話だけどね。
「それにしても……アリスは何を着ても似合うね」
「そうですか?」
本日の服装は俺もアリスもお忍びなので、平民スタイルにあわせてある。もちろんなるべくいいものを用意したが本日は清楚な感じでアリスの魅力を引き立てていた。
「うん、やはり可愛い。流石俺のアリスだ」
「えへへ……エクスも格好いいです」
「そうか?なら嬉しいよ」
なんでこんなに可愛いのだろうアリスは。ああ、ダメだ。抑えれないほどにアリスを愛でたくなる。気分を落ち着かせるために俺はアリスと手を繋いでから早速店を回ることにした。最初の店はポーラというこの世界の羊に似た生き物を焼いて串に差したものが売っており、おじさんは俺を見てから驚いたように言った。
「これはこれは、坊っちゃん。大きくなりやしたな」
「こんにちはおじさん。あと、坊っちゃんはやめてよ。これでももう少しで家督を継ぐからね」
「ですかい、にしても隣の方はもしかして……」
「ああ、婚約者のアリスだ。今日はお忍びでデートに来たんだ」
「ミスティ公爵様の……なるほど、噂は本当だんだんですかい」
「噂?」
「ええ、坊っちゃんが王子様から婚約者を奪ったていう話ですよ」
どうやらここまで噂が広がっていたようだ。おじさんとの話が聞こえたのかこちらをチラチラ見てくる人がいるので、俺は少しだけ声を大きくしつつアリスを抱き寄せて言った。
「まあ、好きな気持ちが抑えられなくてね。長年の初恋が実って今は幸せだよ」
「そうですかい、それはそれはおめでとうごさいやす」
「ありがとう。あとそれを貰いたいんだけど、いくらだい?」
「いえ、お代は結構です」
思わぬ申し出にアリスと顔を見合わせるとおじさんは微笑んで言った。
「未来の領主様にはよくしておかないといけやせんからね。それにこれはささやかなあっしからの婚約祝いです」
「おじさん……ありがとう」
「いえいえ、そうしていると何だかベクトル様とマキナ様がお忍びでデートをしてる時を思い出します」
「それは初耳だな」
「坊っちゃんがまだまだ小さい頃ですから」
「そうか……なら、あの二人を越えるほどにイチャイチャするさ」
その言葉にアリスは顔を赤くして俺の胸に顔を埋めてくる。そんな可愛い様子に満足していると、ポカーンとしてからおじさんは笑って言った。
「これはこれは、もはや間違いなくお二人を越えてやすぜ。なにしろベクトル様はマキナ様をそんな表情にしてることはありやせんでしたからね」
「そうか、ならあの二人は昔から安定した夫婦だったのだろう」
「ちげえねぇです。そういえば、坊っちゃんは騎士団には入るのですかい?」
「ああ、いずれは父上を超える騎士になるさ。この前もあと少しで勝てそうだったからね」
まあ、身体強化無しでだけど、かなりおしいところまでいった。母上の中断がなければどこまで続いていたかわからない。間違いなく近くまではきていることがわかった。あとはこれからの訓練しだいだろう。騎士団に入るまでの一年で父上を越えてみせる。そんな俺の言葉にアリスは微笑んで言った。
「エクスならきっと勝てますよ」
「ありがとう、アリス。そういえば母上がそのうち会いたいと言っていたけど時間取れるかな?」
「ふぇ!?お、お義母様がですか?」
「ああ、大丈夫。むしろ好意的な反応だったからアリスは心配することはないけど……」
「そ、そうですか。エクスとの婚約に反対されたらどうしようかと心配になりまして」
そんな可愛い心配をするアリスに俺は抱き締めてキスの嵐をしたくなるのを抑えて微笑んで言った。
「大丈夫。俺とアリスの結婚を阻むものは俺が排除するから。アリスは何も心配しなくてもいいよ」
「エクス……はい!」
嬉しそうに微笑むアリスとイチャイチャしているとそれを近くで見ていたおじさんや他の人達は温かい目でみてくれていたのはありがたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます