第36話 騎士団長の息子は親子の時間を楽しむ
「まったく……二人とも反省してください」
そう怒るのは俺の母親であり、現騎士団長の妻、そしてロスト子爵家の子爵夫人のマキナ・ロストだ。小柄な外見とは異なりパワフルな彼女はやはり騎士団長の妻にふさわしい風格を持ち合わせていた。というか、親子の訓練を止めるために顔面に石なげるようなパワフルさはどうなんだろう?
「すまんな、マキナ。あまりにもエクスが強くなっていて楽しくてな。やはり今度じっくり身体強化魔法ありでやってみたいものだ」
「そ・れ・で、訓練場を破壊する馬鹿がいますか!まったく……ベクトル、貴方が加減しないでどうするのですか」
「しかしだな、あのエクスを前に加減などできるわけもなくて――」
「言い訳はしない」
「すみませんでした」
ギロリと睨まれて呆気なく敗北する父上。なんとも尻にひかれているが理想的な夫婦仲に呆然としていると矛先はこちらに向いた。
「エクスも、お父様の挑発に乗らないの」
「すみません。父上を訓練に誘ったのは私なんです。責任は私にあります」
「そうなの?それでも、訓練場壊すくらいに暴れたのはこの人なんでしょ?なら同罪ね」
「すみません母上。あと、母上コントロールがいいのですね」
そう言うと母上はぽかんとしてから笑って言った。
「当たり前よ。何年この人の妻をやってると思うの。これでも普通の令嬢よりは強いわよ」
「逞しい限りです。ただ、できればアリスにはそういうことは教えないでください」
「アリスちゃんね……近いうちに連れてきなさいよ。久しぶりに会いたいし、それにあの子が私の後釜になるのよね?」
その言葉に頷いてから言った。
「ええ、卒業したら私の元に来てもらうつもりです。式も早めに行います」
「そう……それにしてもここ最近のあなたには驚くわ」
「と、言いますと?」
「騎士団に入るのを嫌がってたあなたがいきなりやる気になって、しかも堕落して追いかけていた女をすぱっと切り捨ててアリスちゃんを堕とすとは思わなかったわ」
まあ、そういう見方になるよな。俺はそれに頷いてから言った。
「過去の愚かな行いを悔いて、好きな人に気持ちを伝えただけです。特別なことはなにもしてません」
「いえ随分と変わったものね、まるで別人みたいだけど、何があってもあなたが息子なのは変わらないわ」
「ありがとうございます母上」
「それはともかく……あなた最近色々やってるみたいだけど大丈夫なの?」
おそらく乙女ゲーム関係での動きでそう言われたのだろう。俺はそれに頷いてから言った。
「大丈夫です。ロスト子爵家に迷惑はかけません」
「迷惑とかいう問題ではないわよ。何かやってるのはいいけどあまり無理はしちゃダメよ?アリスちゃんだってそこまで望んでないだろうし」
流石は母上。俺がアリスのために動いてることを知ってるように言うので俺は頷いてから言った。
「大丈夫です。そこら辺も考えて動いてますから。何より私は今はアリスを少しでも愛でるために邪魔なものを排除してる段階です。その掃除が終われば一段落しますから」
「そう……なんだか随分と変わったわね。まあ、アリスちゃんからしたらそんなエクスが格好いいのかしら?使用人から聞いたわよ。アリスちゃんとラブラブだって」
その通りだが人から言われると少しだけ恥ずかしくなるが……いやいや、恥ずかしくなる必要なんてない。当たり前のことだからね。
使用人からそんな情報が流れるとは思わなかったが……まあ確かにそういう報告はするだろうね。一応俺が調べた限りではロスト子爵家の使用人には怪しい人間はいなかった。皆職務に忠実ないい使用人ばかりなので裏切り者が出ないことを祈る。知り合いを斬るのは少しだけ不快だからね。
そんなことは口にはせずに俺は言った。
「ラブラブとは畏れ多いまだまだこれからですよ」
「あら、そうなの?」
「ええ、母上は父上とはどうなのですか?」
「そうね……ラブラブだけど、この人ったら仕事にかまけて私の相手はしないから拗ねちゃうわ」
「そ、そんなことないだろ?」
「ええ、拗ねて浮気でもしてやろうかと思ったくらいよ」
「えぇ!」
その言葉に目を丸くする父上を見て母上は笑って言った。
「冗談です。そんなに暇ではありませんよ」
「暇ならばしたのか……」
遠い目をする父上。まあ、それは自業自得なので仕方ない。俺が騎士団長になったらなるべくアリスとの時間を作るために頑張ろうと思った。まあ、アリスのためにというか、それで仕事が疎かになるようなことは決してあってはならない。むしろ、アリスがいるからこそ効率よく仕事が終わるくらいのレベルでないといけない。というか、そういうイケメンに私はなりたい。いや、ならないといけない。周りからの評価など本来ならどうでもいいが、アリスのためには上げておいて損はない。アリスが自慢できるような俺でありたいものだ。イケメン騎士団長エクスさんになるために努力は惜しまない。そんなことを思いつつ俺は家族との時間を過ごすのだった。
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