第23話 騎士団長の息子は親友から頼まれる
「なるほど、そういう展開になったのか」
教室でリンスに今朝のことを聞かれたので答えるとそういう反応が返ってきた。
「でも、少しだけ意外かな。てっきり心をバキバキに折ってから矯正するのかと思ったよ」
「それでも良かったけど、使えるものは使わないとな」
途中まではそのプランでいたが、侍女、アンリの存在を知ってから最後のピースが揃って、おおよその見当がついたのでシフトさせたのだ。まあ、失恋パターンだったらこんなに穏便にはいかなかったかもしれない。その場合は新たに別の候補を立てるか、依存という名の忠誠を捧げさせることになっただろう。
心が弱った人間ほど付け入るのは容易い。まあ、こんな思考をアリスには見せられないけどね。自分でもあまり褒められた思考でないことはわかっているから。それでも世の中俺以上に下衆な輩は多いからまだセーフかな?
「しかし、エクスは本当に頭が回るな」
「なんだ急に?」
「君と友人になってからずっと思っていることだよ。それに人の心の機敏にも敏感ときた。身体能力も飛び抜けていて、現段階でこの国最強の騎士団長に匹敵する力を持つ。そして貴族としての位に、可愛いくて賢い婚約者がいると来たものだ」
「最後以外はほとんど勘違いだ」
「最後は否定しないあたり君の愛の深さが伺えるね」
そりゃあ、アリスが可愛い上に賢いのは当たり前だからな。
「何度も言うけどアリスは渡さないからな。いざとなったら俺はアリスを連れて逃げる準備もしてある」
「逃げるって、選択肢がすでにちゃんとある時点で凄いけど、その必要はないよ。僕も父上もミスティ嬢のことは最初から諦めているから」
「そうなのか?」
「あの婚約破棄の一幕に父上は大いに喜んでいたからね。息子としては父上のそういうところはかなり複雑だけど」
あの狸親父ならそういう反応になるのだろうな。一歩間違えれば狂気になりそうなところを理性で制しているような男。自分の息子でさえ使えるか、面白いかで判断するような思考の持ち主にはあまり関わりたくないんだけど……あれが国王でいる限りは接触の機会は少なくないだろう。
「本当に早めにリンスには玉座に座ってもらいたいな」
「気が早いね」
「そうでもないだろ?実際問題、リンスにはすでに国王としての素質は十分に備わってる。あとは学園卒業したら早くに陛下を追い落として国王になってもらわないとな」
「国王か……ねえ、エクス」
そう言ってからリンスは少しだけ悲しそうな表情を浮かべて言った。
「もし兄さんが国王になってたら、この国はどうなってたんだろうね」
「栄えていた。そう言って欲しいか?」
「うんうん。そういう気休めはいらないかな」
「なら、正直に言えば滅んでいたか、その一歩手前まではいっていたかもしれないな」
魅了魔法があってもなくてもあの王子はおそらくヒロインに攻略されて腑抜けになっていただろう。攻略対象は精神的に未熟な子供が多い。そういう子供は大きくなってから傷口をつつかれると簡単にボロがでる。エクスも俺になってなかったならそうなっていたのだろう。
「そっか……僕はね、兄さんのこと嫌いだったんだ」
「そうなのか?」
「先に産まれただけで何をやっても僕より下の兄さんはいつも僕のことを目の敵にしていた。いつも傲慢でワガママで、でも王様みたいな雰囲気だけは持っていたと思うんだ」
そう言ってかはリンスは俺から視線を反らして言った。
「僕には兄さんみたいな風格がない。僕は王には向かないのだろうね」
「風格ねぇ……そんなものは自信を積み重ねるしかないからな」
「自信を積み重ねる?」
「自分を肯定することでしか前には進めない。お前は凄いよ。リンス」
「そんなことは……」
「確かに王様には風格は必要だが、それだけではダメだ。きちんと能力がないとそいつはただの愚王だ」
玉座に座りふんぞり返るなら優秀な仲間が必要だ。だがリンスにはそれを補って余りあるスペックがある。だから……
「どうせなら歴代最高の賢王とでも呼ばれてみたらどうだ?」
「僕が賢王……君はいつも凄いことを言うよね」
「大丈夫だ。何かあったら支えてやるから。ま、アリスがこの国にいるなら俺もいなきゃいけないからな」
そう言うとリンスは少しだけ笑ってから言った。
「ありがとう。ならさっそく頼んでもいい?」
「用件による」
「あまり言葉を選ばすに言えば……兄さんと側近だった人達を更生して欲しいんだ」
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