第22話 騎士団長の息子は部下を得る
翌日、学園に来ると入り口の前で通行の邪魔をしながら立っている人物がおり、俺はため息をつきながらアリスに言った。
「すまないアリス。ちょっと行ってくる」
「お供しますよ」
「いいのか?若干面倒な展開にまたなるかもしれないのに」
「エクスとならどこにでも行きます」
にっこりと微笑んでそう言ってくれるアリスに俺は心から愛しさを感じたので後で可愛がろうと思いつつ近づいて言った。
「そんなとこで通行の邪魔をしてないで中に入ったらどうだ?ファン・ラクター」
「……きたか」
俺の存在に気づくと彼はしばらく黙ってからゆっくりと頭を下げて言った。
「ありがとう。お前のお陰で俺の想いが叶った」
「別に君のためにしたわけではないけど、その礼を言うためにこんなところで立ってたわけじゃないだろ?」
「……なあ、昨日の言葉は本当か?本当に俺に居場所をくれるのか?」
「欲しいならあげる。タダではないけどね」
「何を支払えばいい?」
「何なら支払える?」
そう聞くと彼はしばらく黙ってからポツリと言った。
「俺の大切なもの以外ならなんでも」
「なら、君は私の部下になれ」
「部下だと?」
「ああ、学園を卒業したら騎士団に入れ。そして俺が騎士団長なになってから馬車馬のように働いて貰うことになるが文句はあるか?」
「……構わない。よろしく頼む、エクス・ロスト」
「エクスで構わない」
そう言ってから俺は手を差し出すが彼はそれに首をふってから片膝を地面につけてから騎士の忠誠のようなポーズで言った。
「部下になるなら握手はできない。だからこうして誓わせてくれ。俺はあんたの部下になる。ただ一つだけ譲れないものがあるからそれを先に言わせてくれ」
「それは?」
「アンリ……俺の侍女で俺の想い人を守ることが俺にとっての一番だ。だから深い忠誠は誓えない。もちろんアンリのこと以外なら俺はあんたを優先する。ただ、大切な人の危機ならそちらを優先させてもらう」
「そうか、随分と勝手な言い分だな」
「わかってて誘ったんだろ?」
「まあな。簡単に忠誠を誓ったら殴ってたくらいだ」
確かに手駒が欲しいが、絶対の忠誠心というのを俺は信じてない。確かにそういう忠義者もいるのだろうが、世の中の人間の大半は自分の妻や家族を優先する。だからこそこうして明確に相手の弱点を把握して掌握できれば有利に事が運ぶ。何より一人の男として自分の女を守らないでどうするんだという気持ちが強いからだ。
「とにかく、俺はあんたの部下になるが、それだけは譲れない。そんな半端な忠誠を受け入れて貰えるか?」
「俺以外なら断る条件だな。だが、俺は寛容だからな。受け入れよう」
「ありがとう……エクス様」
「ああ、よろしく頼むファン・ラクター……いや、ファン」
そう言ってから俺はそうして誓いを受け入れて手駒を増やした。そうして満足していると、ふいに視界に昨日会った侍女がいることに気づいて手招きして言った。
「話は終わった。こちらに来るといい」
その言葉にしばらく迷ってから近づいてくる侍女はファンの側に立つと控えめに挨拶をした。
「昨日はありがとうございました。ファン様の侍女のアンリと申します」
「ファンの上司になったエクスだ。想いが叶ったようで何よりだ」
「はい、エクス様には感謝してもしきれません……ありがとうございます」
そう言って頭を下げるので俺は苦笑しながら言った。
「長年勘違いをしていた馬鹿をよく受け入れたね」
「ファン様に想いを伝えられなかった私にも非はありますので、それに……やっぱりファン様のことが大好きですから」
「アンリ……」
その言葉に嬉しそうにするファン。男というのは本当に単純だと思っていると隣のアリスがクスリと笑いながら言った。
「エクス、私達はお邪魔みたいですよ」
「それもそうだな。行くか」
そう言ってからこの場を去ろうとするがその前にアンリが「あ、あの!」と言ってきたので立ち止まる。
「どうかしたの?」
「ファン様のことよろしくお願いします。それとお訊ねしたいのですが……どうして私とファン様の想いがわかったのですか?」
「特別なことはなにもしてないよ。君がファンのことを話すときの動作と言動、ファンの場合は行動を見ればなんとなく把握できたからね」
そう言うとポカーンとしてしまった二人を置いてその場を後にした。歩きながらアリスは少しだけ笑って言った。
「エクスは時々凄いことを平然と言いますね」
「そうかな?アリスのことなら100%把握できる自信があるけど知らない人だと少しだけしかわからないから凄くはないよ」
「私のことならですか?」
「うん、例えば……アリスはさっき二人がイチャイチャしようとしたときに若干羨ましくなってたとかね」
「なっ……そ、それは、その……エクスとももっとイチャイチャしたいなぁと思って」
もじもじしながらそう言うアリスに俺はかなりの萌えを感じたので放課後はより可愛がろうと心に誓うのだった。
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