第19話 騎士団長の息子は勝利を捧げる
「エクス!」
アリスの元に戻ると心配そうなアリスが俺に駆け寄ってきた。
「怪我はないですか?さっき剣を素手で……」
そう言ってからアリスは俺の手を握ってから傷がないことに驚くが俺はそれに苦笑して答えた。
「アリス。大丈夫だよ。それよりもこんなに積極的なのは嬉しいけど、こんなに大勢の前だと少し照れるね」
「あっ……」
言われて気づいたのか顔を真っ赤にする。そんな可愛いアリスにほのぼのしていると、リンスが近づいてきて言った。
「随分と容赦なく勝ったね。ほとんど剣を使わずに最後は白羽取りと拳で呆気なく倒すあたり凄いよ」
「褒めてるのか?」
「うん。君の力が想定以上で嬉しいくらいだ。でも、彼は大丈夫なのかい?」
そう言ってから運ばれていくファンに一度視線を向けてから俺は肩を竦めて言った。
「まあ、まずはあの性格を矯正する必要があるからな。あのままでは使い物にならないから今回の負けで学んでくれるようにアドバイスはしたが、後は彼次第かな」
「アドバイスよりも挑発に見えたのは気のせいかな?」
「間違ってないよ。ただ、ああしないと挫けなさそうだったからね」
「彼のプライドをかい?」
「ああ」
自尊心の塊のような人物にも何パターンかある。挫かれて呆気なく終わるタイプとその挫折を糧に這い上がるタイプ。後者なら普通に強くなるが、扱いは面倒なまま。そして前者はそのまま終わるならその心の隙をつけば利用は楽になる。ここからはシナリオ次第だが奴を使えるレベルにはするつもりだ。まあ、このまま終わらせて放置でもいいけど、折角なら使える駒が多いにこしたことはない。リンスは俺の言葉に苦笑しながら言った。
「君はかなりの悪魔だよね」
「まさか。むしろ聖人だろ?」
「欲望に忠実な君は悪魔側だと思うけどね……そういえば、なんで自分の剣を使わなかったんだい?それ借り物だろ?」
「気づいてたんだ。まあね」
俺は剣を抜くと軽く手で弾きながら言った。
「生憎と必要性を感じなくて忘れてきたんだ。あのままこれで打ち合ってから間違いなく剣を砕かれていただろうね」
「だから最初かなりやりづらそうにしていたんだね」
「まあ、予想より悪い剣だったからね」
「それでも最後どころか、拳だけで勝ったなら凄いことだよ」
「剣というのは、使い手によっていくらでも名刀から鈍にもなるからな。案外素人相手なら素手の方が楽だろうね」
「それは君だけだと思うけど……」
そうして話してからリンスは用事があるとこの場を後にしたので俺はタイミングを見てアリスに近づいてからその手を取って片膝をついてから頭を下げて言った。
「アリス。この勝利をあなたに捧げます。あなたがいたから私は勝てました」
「え、エクス?いきなり何を……」
「アリス」
そう言ってから俺は少しだけ顔をあげると微笑んでから言った。
「これからも私はあなたのために戦います。この先どんな相手が立ちはだかろうとそいつを倒して必ずあなたの元へと戻るとお約束しますだから……どうかこれからも私を信じて共にいてください」
その言葉に周りが大きな歓声をあげる。「きゃー!プロポーズですわ!」「素敵……なんて大胆なの」「あれがミスティ様の婚約者のロスト様……敵にはしたくないな」なんとなく予想通りの反応に概ね満足する。もちろん目の前の赤くなるアリスの反応もそうだが、観客の反応のそのうちの一つだ。こうして俺の実力を見せつけておけばアリスに寄る虫は少なくなるだろう。なにしろ公爵令嬢で可愛いアリスはいつ狙われるかわからないからこうして牽制をしておく必要がある。まあ、半分くらいはアリスに格好いい姿を見せたいというのも本音だけどね。
いつもの甘やかせる俺もいいけど、時にはこうして凛々しく戦う姿を見せてギャップを狙いたいのだ。男のギャップ萌えというのはわからないが、時には違う面を見せることでアリスの心を掴むのは理解できる。まあ、アリスのギャップ萌えなら十分わかるけどね。アリスのツンデレとかクーデレとかヤンデレとか、最後のやつはギャップではないかもしれないけど、個人的にはヤンデレアリスを見てみたいものだ。
こうして、この学園での新しい暗黙のルールが打ち立てられることになるのだった。『騎士団長の息子を敵に回すな』『騎士団長の息子の婚約者に手を出すな』概ね予想通りの展開に満足するが、何よりもこの後アリスが少しだけ恥ずかしそうにしている姿を見れたのでかなり大きな成果だろう。ちなみに空気になっているヒロインはその光景にため息を漏らしていたが、特に何も言わなかったのだった。まあ、あの腹黒にもこういう展開は読めていたらからなのだろうが、自分を巡っての決闘を茶番と見れるその精神に少なからず感心したのは秘密だ。あとはあの道化がどう転ぶかだが、そこはうまく運んでいくしかないだろうと半分くらいは運任せだった。まあ、これからの障害になるなら消せばいいし、使えるなら駒にするだけだからだ。
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