第16話 騎士団長の息子は決闘を挑まれる
「おい、あの侍女って確か……」
「えっ、嘘、本当に。なんであの人がミスティ様とロスト様とご一緒に」
「あいつ確かミスティ様からメイス殿下を奪った魔女だろ?なんでミスティ様の侍女になってるんだ?」
そんな声が周りから聞こえてくる。その声にアリスは苦笑しながら言った。
「予想通り凄いですね。私がエクスの婚約者になった時と同じくらいでしょうか?」
「まあ、それはそうだ。婚約破棄事件の被害者が加害者を使用人として雇ったとなればこうなる」
想定通りの展開なので俺は特に気にせずに答える。その俺の言葉に後ろから非難が飛んでくる。
「加害者と言っても未遂でしょ?それなのになんでこんな公開プレイをするハメになるのかしら」
「まあ、罰の一つだと思ってくれ。それに未遂どころかおもいっきり計画的犯行だろうが。あと、アリスの前でプレイとか言うな」
「細かい男ですこと。まあいいけどね」
ヒロインを連れてくればこういう展開になるのは予想通りだ。連れてこないという選択肢もあったが、どうせなら不穏分子を早めに潰したいという目論見もあるが、これはある意味アリスの皆からの心象を少しでもあげるための手段でもある。今のアリスは婚約破棄の被害者で悲劇のヒロイン。そして俺に救われた注目の人物だが、それだけだ。だからこそ、自分の敵だった相手でも受け入れる懐の深さ、慈悲深さをアピールする目的もある。まあ、一歩間違えばただの甘い人間に取られるだろうが、そう捉える人間がいるならそれはそれでいい。もしアリスがそうと捉えて近寄ってくるような奴がいればそういう蝿を潰すのは俺の役目だ。
「でも、エクス。本当に連れてきて良かったのですか?」
「何か不安でもあるのかい?」
「ほら、前にエクスに絡んできたような人がまた来ないか心配で……」
「ああ、問題ないよ。それなら……」
「エクス・ロスト!」
そんなことを思っていると予定通り一番先に突っかかってくる人物がおり、俺は今度は彼に穏やかに微笑んで言った。
「おや、これはフォンなんとか男爵子息さん。こんにちは」
「誰がフォンだ!ファン・ラクターだ!」
「失礼。アリス以外に興味がわかないものですからつい」
「ついじゃねぇよ!どうやったら間違えるんだよ!いや、そんなことより……」
そう言ってから彼はヒロインに視線を向けて言った。
「なんでマリアが使用人の格好をしているんだ!」
「なんでって、使用人だからですが何か?」
「ふざけるな!お前は冤罪を彼女にふっかけるだけではなく、あまつさえ使用人の格好で辱しめる始末……もう黙ってられない!」
腰に手を伸ばし剣を抜いてから俺に切っ先を向けて睨みながら彼は言った。
「俺と勝負しろ!正々堂々一対一でだ!俺が勝ったら彼女を解放しろ!」
「こちらには何のメリットもありませんが、では私が勝ったらどうなさるつもりですか?」
「その時は貴様の奴隷でもなんでもなってやる!」
本当に……あまりにも想定内の反応に俺は思わずため息をつきたくなるが、俺はなんとか堪えて頷いて言った。
「では、私が勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえると?」
「ああ!だが、貴様は俺の剣で斬るからその想定は無意味だ!」
「では、今日の放課後にでもやりましょうか。ここでは何かと目立ちますし、学校の訓練所で待ち合わせにしましょう」
「望むところだ!首を洗って待っていろ!」
そう言ってから離れていく哀れな道化に思わず内心で合掌していると、アリスが心配そうに聞いてきた。
「良かったのですか?あんな約束をして……それにエクスが危ない目にあうのは私、嫌です」
「心配しなくても大丈夫だよ。それにどのみち彼は遠くないうちに俺に仕掛けてきただろうからね」
「マリアのことですか?」
「ああ。どうにも彼はマリアへの恋慕を抑えきれないようだ。しかも質が悪いのが決して報われない想いに取りつかれていることだろう」
「決して報われない想い……」
「ああ。俺も一歩間違えれば彼のようになっていただろう。相手のことをまるで考えてない一方通行の想いというのは時に狂気を孕むものだからな」
自分の気持ちを優先するあまりに暴走する感情。抑えきれない想いというのは時に悪い方へと転がりやすい。ストーカーや変質者というのはその最たるものだろう。自分の想いを優先するのは決して悪いことではない。しかし、それを他人に向けた時に受け入れられるかどうかはまるで別の問題だ。そんな俺の言葉にアリスは俺の手をそっと握ってから照れながらも俺の目を見て言った。
「私はエクスの想いは全部受け入れます。絶対に。だから大丈夫です」
「ありがとうアリス。ちなみに俺はアリスの想いを受け入れるだけではなく、それを具体的な形で表現するよ。こんな風にね」
そう言ってから俺は握られてる手を重ねて所謂恋人繋ぎにする。アリスはそれに驚いたように目を丸くしていたが、嫌そうではなく、むしろ恥ずかしいけど嬉しい!みたいな表情を浮かべていたので俺はその場でアリスを抱き締めたい衝動を抑えるのにいっぱいいっぱいだった。まあ、そんなラブラブな俺達の様子を見て周りがきゃーきゃー言っているのと、後ろで苦笑いを浮かべているヒロインがいたことはこの際考慮はしない。俺の想いは決して間違ってないからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます