第17話 騎士団長の息子は親友と雑談する
「なるほど、今朝の騒動もやっぱり君の仕業か」
アリスと違う授業で寂しい思いをしている俺にリンスは苦笑して言った。
「あの女を罰しないで、使用人にすると聞いてから何をするのか気になってたけど、今のところは君の想定通りと言ったところか?」
「人を腹黒みたいに言うなよ。まあ、予想の範囲内なのは否定はしないが」
「ねえ、聞いてもいい?なんであの女を彼女の使用人にしたの?君なら分かってるでしょ。彼女がどれだけ危険な要因なのかを」
理由か……まあ、確かにヒロインは何かと危険な要因にはなるだろう。しかし、それ以上に厄介そうな情報をヒロインから得たことでその危険性は限りなく低くなった。
聞けば、なんと俺が知る乙女ゲーム『ラブリー・プリンセス』には続編と、アナザーストーリー、そして世界観を共通にさせた外伝作品が多数あるそうだ。ヒロインですらその全てを把握しきれてないという乙女ゲームのメディア展開の広さに呆れてしまうが、呆れてばかりもいられなかった。そのいくつかには別のヒロインで攻略対象も別なのに悪役令嬢はアリスというものもあるそうだし、何よりも俺、エクスが攻略対象のゲームもあるそうだ。本編で不人気なキャラにまでさらに日の光を当てるメーカーのプロ根性には脱帽だが、アリスを守るのに俺が大きなハンデということになるので厄介だ。
まあ、乙女ゲームのことを置いておいても、ヒロインを仲間に引き入れるのは後々プラスになる予定だ。本当は物語みたいにヒロインにざまぁして断罪なりをすれば良かったのかもしれないが、結果だけを見るならそれは無意味だとわかる。そうしてスッキリしたところで、アリスの辛かった記憶が消えるわけではない。アリスの気持ちを考えれば微妙なのだろうが、アリスがヒロインに悪感情を持ってないことは夜会ですでにわかっていた。アリスは決して他人を恨んだりしない。いつも自分のせいにして自分を追い詰める。だから俺は彼女を本当の意味で守りたいのだ。
まあ、そんなことをリンスに言えるわけもなく俺はしばらく考えてから普通に答えた。
「魅了魔法という手札が増えればいざという時に役立つ。それにあの女は演技も上手い。そういうトリッキーな手札があればアリスを守りやすいからな」
「あくまでも、ミスティ嬢メインの考えなんだね。でも、やっぱりエクスはミスティ嬢絡みだと本当にどこまでもするよね」
「当然だ。俺はアリスの婚約者だからな」
「あーあ。僕も早く婚約者見つけたいけど、こればかりは父上の決定次第だからなー」
まあ、リンスほどの立場になれば政略結婚というのは当たり前なのだろう。本当はアリスを後釜にするつもりだったみたいだけど、俺が先に手をつけたから向こうも諦めたのだろう。まあ、あの王様が暴君ならアリスを無理矢理取られたかもしれないが、その時は二人で駆け落ちして慎ましく生活しただろう。むしろアリス的にはそういう駆け落ち展開に憧れてる節があるが、やはり普段抑圧されているからだろうか?二人きりだとだんだん甘えるようになってきてるアリスに俺はかなりの満足感を抱いている。
「まあ、リンスにも早くいい人が見つかることを祈るよ。そういえばリンスの好みのタイプっているの?」
「好みのタイプ?異性のだよね?」
「同性愛にでも興味があるならそれでもいいが、俺は少しだけお前との物理的な距離が開くだろう」
「なんだかえらく失礼な誤解だけど、僕はノーマルだから。でも、物理的な距離だけなんだ」
「それはそうだろ。友人がどんな趣味でも友人には変わらないからな」
この世界は同性愛や近親婚にもわりと寛容だ。だからこそ否定はせずにまずは距離を取りつつ見守るのが妥当だろう。まあ、俺にはそういう趣味はないから想いがあっても応えれないけどね。どのみちアリスがいるから俺に向けられるラブの感情は無意味でしかない。まあ、リンスが仮にそうでも、友人というのは変わらない。何があろうと友人が友人でなくなることはない。もちろんアリスのためなら俺はそれらを平然と捨てられる人間だが、可能ならそれらを守りたいというのも本心なのだ。
そう言うとしばらくポカーンとしてからリンスは笑って言った。
「やっぱり君と友人になれたのは良かったよ」
「そうか?」
「そうだよ。本当はね、僕は王太子になったことにかなりプレッシャーを感じていたんだよ。何しろ父上があの通り頭のキレる人だからそんな人の後を継ぐのはかなりのプレッシャーなんだ」
あの国王は頭がキレるというより性格が悪いというのが妥当だろうが、そんなことを言わずに黙って聞くことにした。
「だからこそ、君みたいに僕を支えてくれる人には感謝しかないんだ。ありがとうエクス」
「まあ、こっちもリンスにはこれから先世話になるだろうから感謝は不要だけど、一応受け取っておく」
「ああ、なんでも頼ってくれ。ただ、君とミスティ嬢のノロケを延々と聞かされるのは勘弁して欲しいかな」
「マジか。それは聞いて欲しいくらいだ」
そんな風にしてアリスのいない時間を友人と過ごすことで紛らわせる。まあ、たまにならこういう時間も悪くはないと思うのは気まぐれだろうか?
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