第8話 騎士団長の息子は親友が出来ます

「ロストくん!ミスティ嬢!」


教室に入ると金髪のイケメンに話しかけられる。攻略対象のメイス王子に似た顔立ちのこいつは確か……そう、双子の弟、第二王子のリンス・ランドリーだ。ゲームには攻略対象としては出てこなくて、メイス王子の回想だけで出てくる設定だけのキャラだが、エクスの記憶には普通に友人として接してくれている姿がある。ぶっちゃけメイス王子より遥かに優秀でイケメンなのだが、そんなメイスが弟に劣等感を抱いていて、ヒロインに攻略されたのは言うまでもないだろう。


「おはようございます。リンス様」

「お、おはようございます」

「ああ、おはよう。それよりも一昨日は兄がご迷惑をおかけしてすみませんでした」


そう言ってから頭を下げるリンス様。アリスはそれを見て慌てて止めようとするが俺はそれを制して言った。


「リンス様。頭を上げてください。あなたには何の責任もないのですから」

「しかし、僕はわかっていてミスティ嬢の断罪を見ていました。兄と同罪です。ロストくんがああしてなければ兄はもっとミスティ嬢に迷惑をかけていたでしょう」

「……あの、リンス様」


そこでアリスはしばらく戸惑ってからしっかりとリンス様を見て言った。


「私は、今とても幸せです。エクスに助けてもらって告白されて……凄く幸せです。確かに婚約破棄された時には少しだけ悲しくなりましたが……エクスが隣にいてくれるのなら今は幸せだと言えます」

「アリス……」


俺は思わずアリスの手を握って言った。


「約束します。アリスを一生守ると」

「はい。お願いします」


にっこりと微笑むアリスに俺はさらに心をもっていかれるが、その前に苦笑しながらリンス様が言った。


「お二人の邪魔はしたくありませんが……もうひとつの用件をお話してもよろしいでしょうか?」

「おっと、失礼。どうぞ」

「僕の用件は謝罪と、ロストくんへのお願いを聞いていただきたいのです」

「お願いですか?」

「ええ、僕は兄の代わりに王太子になりました」


その言葉にアリスは目を丸くするが俺はわかっていたので特にリアクションはせずに続きを促す。すると、何故かそんな俺の態度を見て嬉しそうに微笑みながら言った。


「これから先、僕にはこの国を守るために力が必要になります。なので、僕の力になって欲しいのです」

「それは、側近になれということですか?」

「近いですが、強制はしません。ロストくんはこの先おそらくお父上の後を継いで騎士団長になるでしょう。その時に友人としてこの国を共に守って欲しいということです」

「何故私なのですか?」


そう聞くとリンス様は微笑んで言った。


「もちろん、あなたが信頼できると思ったからですよ」

「信頼ですか?」

「ええ、ミスティ嬢を助けた時に見せた頭の回転の速さにも驚かされましたが、なによりあなたはミスティ嬢を害されない限りこの国の味方をしてくれるのではないかと思ったのです」


なるほど……兄と違って馬鹿ではないようだ。よく見てるし冷静で頭がきれるみたいだ。


「あと、当初の計画ではもし兄があのままミスティ嬢を断罪していたら、僕がミスティ嬢を守る予定だったのですが……まんまとその座を取られたのです」

「アリスを王妃にするという話なら私はリンス様が相手でも抵抗させていただきますよ」


そう殺気を出して言うと、リンス様は苦笑して言った。


「もちろんそれはとうに諦めてます。ミスティ嬢のお心をあなたはゲットされた。なら僕は僕で別の王妃候補を見つけるだけです」

「そうですか……確かに私はアリスが害されない限りはこの国を守ると誓えます。リンス様が望まれるなら側近にでもなんでもなりましょう」

「ありがとうございます。では、とりあえずきちんと友人になっていただけますか?」

「そうですね……では、私のことは名前で呼んでください。あと砕けた口調で構いません」


そう言うとリンス様はキョトンとしてからクスリと笑って言った。


「わかったよエクス。では、僕のことも呼び捨てで構わない。無論砕けた口調でだ。公の場でないなら問題はないからな」

「了解だ、リンス」


そう言うと頷いてからアリスを見て言った。


「ミスティ嬢。これから時々エクスを借りるが問題はないか?」

「はい、お仕事なら仕方ないです」

「仕事か……まあ、時々僕の護衛を頼むことにはなるかな」

「それって、俺がやって大丈夫な仕事か?」

「無論だ。エクスの剣の腕はこの学校で規格外に強いからな」

「剣の腕と実践での戦いは別物だが?」

「それをわかってるなら問題ないだろう」

「まったく……わかったよ」


そう言ってから俺はアリスに微笑んで言った。


「アリス、というわけで時々お側にいられませんが……大丈夫ですか?」

「寂しいと言ったらエクスはどうするのですか?」

「無論断って側にいます」


そう言うと後ろで苦笑するリンスがいたが俺はスルーしてアリスに言った。


「私の一番はアリスですからね。アリスが望むことはなんでもします」

「そうですか……あの、でしたらひとつだけお願いが」

「なんなりと」

「さっき、リンス様と話してた時口調と一人称違いましたよね?私にもその……もっと砕けた話方をしていただけますか?」

「この口調はお気に召しませんか?」


騎士ならこれくらい紳士がいいかと思ったのだが……そう言うとアリスは首をふって言った。


「エクスの全部を私は知りたいのです。ですからもっと素のあなたを私にください」

「アリス……わかった。これでいいか?」

「はい」


笑顔で微笑むアリスが可愛いすぎて、こんなことでも喜んでもらえるならいいかと心から思うのだった。




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