第7話 騎士団長の息子は学校に行きます

「おい、あれ……」

「ミスティ様とロスト様がご一緒にいますわ」

「やっぱり、婚約破棄の話は本当だったんだ!」


学校に着いてアリスと一緒に歩いていると、周りから様々声が聞こえてくる。この学校は半数以上が貴族の子供だが、残りは平民の子供なので、あの婚約破棄を見てない人間もいたが、こんな大きなニュースが広がらないわけがなく皆が納得していた。


俺の隣にいるアリスはこの状況に苦笑しながら言った。


「なんだか凄いですね……」

「それはそうですよ。殿下の婚約者だったアリスが他の男と歩いていればそういう反応にもなります」

「そういうものなんですか?」

「ええ、まあ周りの反応なんてあまり気にしなくてもいいと思いますよ?私がアリスのことを好きという事実が伝われば問題ありません」

「エクス……」


二人で見つめあう。すると周りから「きゃー!見てください!ラブラブですわ!」「スゲー!あのミスティ公爵令嬢が頬を赤くしてる!」「おいおい、マジかよ!」などといった反応があった。うん、気持ちはわかるけど、お前らもう少し静かにせいや。せっかくアリスといい雰囲気なのに、アリス今の言葉で恥ずかしがって視線を反らしたやんけ。まあ、そういう表情もありだけど……


「おい!貴様!」


なんか聞こえた気がしたがスルーする。


「そういえば、アリスは今日は何時に授業終わりますか?」

「えっと昼頃には」

「おいと言ってるだろ!エクス・ロスト!」

「そうなんですか。私も昼頃には終わるから予定がなかったら一緒に過ごしませんか?」

「はい。もちろんです」

「聞けよ!エクス・ロスト!」


ポンと肩を掴まれて俺はその手を反射的に捻っていた。


「ぐあー!痛っ!」

「いきなり肩を掴まないでください。ビックリするでしょう」

「わ、わかった!わかったから離せ!」


その言葉に乱暴に手を離すと男は涙目になりながら言った。


「さっきから無視した挙げ句にこの仕打ち……覚えてろよ!」

「というかどなたでしょう?」

「俺だよ!俺!ラクター男爵家のファン・ラクターだ!」


ファン・ラクター?誰だっけ。知り合いか?えっとエクスの記憶を探してみるか……うーん、覚えてないな。


「すみません、どなたでしたっけ?」

「お前……!まさか忘れたのか!俺とマリアの仲を取り持つって約束だっただろ!」


取り持つ?ああ、そうか。こいつはあれだ。マリア――ヒロイン様のことが好きなモブキャラだけど全く相手にされなくてエクスに頼ってきた情けない奴か。攻略対象じゃないから冷たくあしらわれたことをエクスに相談して、当時のエクスはヒロインがそんなことするわけない!みたいな感じで仲を取り持つことにした……うん、確かにそんなやついたな。


「なのに……マリアは今日学校には出てこなくて、おまけに牢に閉じ込められているって言うじゃないか!お前がいながら何をしていたんだ!」

「何をって……正気に戻って好きな人に告白しただけですよ」

「はぁ!?」

「というか、すみません。正直マリア?とかどうでもいいですから。アリスと二人きりにしていただけます?」


その言葉にアリスが少しだけ嬉しそうな表情をするが、対称的にラクターは顔を真っ赤にして俺に掴みかかってきた。


「ふざけんな!!マリアが何をしたって言うんだよ!」


今にも殴りかかりそうなラクター。アリスが心配そうにこちらを見ていたので優しく微笑んでから俺は冷たい目線でラクターを見て言った。


「例えば他人の婚約者を手にいれるために、相手に濡れ衣をきせる女がいたらあなたはどうします?」

「はぁ?そんなの最低なクズだろうが!それがどうした!」

「だから、それをやろうとしたんですよ。そのマリアって人は」

「ふ、ふざけんな!マリアがそんなことするわけ……」

「信じる信じないは別ですが、私は事実を言っただけです。どうしても信じられないなら国王陛下に直接謁見するなり、他の貴族に聞くなりしてください」


俺はそう言ってから掴んでる手を払ってアリスに笑顔で言った。


「では教室に向かいましょう」

「はい」

「ま、待て!」

「はぁ……あのですね。今後一切私とアリスの邪魔をしないでください。私はアリスとの残り少ない学生生活を楽しみたいんですよ。それが出来ないなら力ずくで排除します」


そう言って一度睨んでから俺とアリスはその場を後にする。歩きながらアリスが心配そうに聞いてきた。


「よかったのですか?」

「何がですか?」

「あの方はマリアさんのことお好きなんですよね?私にも原因があるのに……」

「アリスは全く悪くありません。むしろ巻き込んでしまったことに私が謝りたいくらいです」

「そ、そんなこと……!私こそ、エクスの婚約者になれて幸せですし……」

「ええ、私もアリスの婚約者になれて幸せですよ」


そう言うとアリスは嬉しそうに微笑んでから、自分の言ったことを今さらながら理解して顔を赤くするのだった。なんて可愛いのだろう。この可愛いさ世界遺産級。いや、俺限定の世界遺産かな?そんな風にして俺とアリスは教室に向かうのだった。
















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