第27話 Vtuberの姉、襲来
徒然なるままに生きていれば、日々は過ぎ去ってしまう。なんと、あと一週間で夏休み。
最近、美玲と会える時間が減っている。部活が忙しくなったのはもちろん、文化祭に向けた準備で放課後の教室が使われ、気軽に居残ってはなせる状況が失われてしまったのだ。
どこかいきたいね、とさりげなくいってみたものの、あまりいい反応は返ってこない。少し寂しいものだ。
部活終わった。ひとりで帰ると、つい考え事をしてしまう。
美麗と僕は、たぶん両思いだ。大事な存在で、簡単に切れるような関係じゃない。それでも、今も距離感を掴みづらいと感じることがある。二年という歳月は、大きかった。その分、会えない時間が、少しずつ美麗への恋心を育むことを知れた。
互い会う時間が減ったのは、正解だったのかもしれない。たとえ二人の時間が楽しくても、依存しすぎは危ないからな。
◆◆◆◆◆
「────はーい、〇〇さん、投げ銭ありがとー! ほんとにうれしい」
「は?」
帰宅後。俺の家には、いるはずのない人物がいた。
リビングの机に座り、ライブ配信者。
俺の姉だ。
パソコンに向かって、僕の前ではみせないような表情を作っている。
「リスナーのみなさーん! ごめんなさいね。ちょうど、私の可愛い弟君が帰ってきたん
だ。ちょっと待っててね!」
パソコンを閉じ、セットを外し、こちらに向かってくる。
「姉さん、なんでここにいるんだよ」
「何でってひどくない? 一応ここ、私たちの家でしょ」
「そうだけど。今住んでる家、ここから遠いはずなのに」
「いやぁ、家賃をずっと払わなかったら、管理人さんガチ切れしちゃって。もともと、ライブ配信がうるさいっていう苦情が割と寄せられたりしてたみたいで。立場が悪かったんだよね。それで追い出されちゃった」
「いや、姉さんは人気配信者じゃなかったのかよ。投げ銭とかで呼びかけ続けてさえすれ
ば、家賃くらい払えるだろ」
「うーん。配信機材とかって高いしさ。スマホとかって新機種出たら即買ってたけど、そのくらいだし」
「いや、金銭感覚」
せっかく稼いでいるのに、家賃代くらい残しておいてくれ、明日のために。
「ああ、今日の夜めっちゃ荷物届くから、よろしくね。しばらくここにお邪魔するから」
「ただでさえ家が狭いっていうのに……」
少し騒がしくなりそうな気がしている。最後の静寂な時間に、今年の夏はなるかな。
あれから、愛海はすぐに配信へ戻ってしまった。姉がいる風景は、懐かしい。数年前まではこれが当たり前の光景だったわけだ。二年いないだけで、いるのに違和感を覚えるなんてな。
さて、金銭感覚の話だが。どうも数ヶ月で機材を最新のものに変ているそうだ。しかもかったものは残しておくスタイル。中古で売っておけばある程度は回収できると思うけどな。
彼女曰く、最高級のものしか使えないらしい。
なお、食生活についてもきいていみた。ひどいものだ。カップ麺で昼と夜はごまかし、朝ごはんに関しては抜いているという。
料理上手のはずだったが、面倒だという理由でやらないそうだ。
現在は配信中。うるさくすることもできないので、僕は静かに動画配信サイトでも見ることにした。引き出しからワイヤレスイヤホンを取り出す。
見るのは、姉の動画。
パソコンの画面をちらりと覗き見して、チャンネル名を確認した。今日はじめて知った。
名前を検索した結果、見つかったチャンネルのアイコンをタップした。チャンネルの概要欄を眺める。
雑談系のLIVE配信とコラボ収録が多めだった。毎日投稿をしている。動画本数は数百本を超えていた。新しい動画だけでなく、古い順で検索をかけ、過去の動画まで遡る。
すると、Vtuverを始める前の動画が出てきた。アバターを使っていない動画だ。
例を挙げると、化粧品レビュー・「歌って見た」・モノマネなど。中にはセクシー風な動画まであった。さすがに最後のものを見るのは憚られた。他の動画をサラッと見ていく。回を
重ねるごとに慣れているのがわかった。
「はぁーい。えーっと、〇〇さん投げ銭ありがとう! なになに? モノマネ? やらないよ〜。昔はちょっとやってたけどね」
僕のイヤホン越しから、姉の甲高い声がきこえる。過去動画の中からモノマネを見てみたが、お世辞にも上手い出来とはいえなかった。それでも、どこか僕は誇らしげだった。
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