ツンデレ美少女令嬢になった幼馴染と付き合うことにしました〜彼女が財閥の許嫁だと知らずに〜

まちかぜ レオン

序章

第1話 昔の美麗はもういない

「美麗、本当に美麗なんだな」


「久しぶりだね、陸夜。私だよ」


 放課後。ふたりきりになった教室に、僕らはいた。


 六月十日。


 この日、美麗はひとりの転校生としてやってきた。中学二年生のとき、天坂美麗あまさか みれいは”家庭の事情”ということで引っ越してしまった。それ以降連絡もまともに取れず、今日まで詳しい理由を何ひとつ知らずに迎えてしまったのだった。


「やっぱり美麗だったんだ。もう二年会ってないけど、なんか別人みたいだな。イメチェンかましたか?」


「イメチェンしたっていうか......陸夜と過ごしてたときとは随分変わっちゃったかもね、変わっちゃった」


 いつも髪はショート一択で、少しでも長くなったら後ろで束ね、スカートの丈が邪魔だといって校則ギリギリを攻めたり、男子にも女子にも分け隔てなく接していたイメージの美麗。今はその対極だ。


 黒髪ロング。十分すぎる長さのスカート丈。喋り方も、昔のようなやんちゃな声に、隠しきれない真面目な女子の声が入ってくる。かけていなかったはずの黒縁メガネが馴染んでいて、本でも読んでそうな地味系女子に成り下がっている。


「変わったな......」


 変わらないものなんてないと知っていても、ショックが隠しきれない。会話を交わせば今までの美麗なんだ。


 でも。


「もしかして、だけどさ。私が笹倉美麗ささくらみれいになってたこと。気になってたんじゃない?」


 彼女は薄い微笑みを浮かべつつ、視線の先の風景に焦点を合わせてこちらを向く。


「気になっていないっていったら、嘘になる」


 今さら戻ってきた美麗に何があったのか、知らないといけないと思っていたんだ。二年ぶりにあった今日、すぐに知らないといけないと。


「私のお母さんね、お父さんに蒸発されたんだ。ちょうど一年生の二月。蒸発された後、母さんはどうにか再婚にこぎつけた。再婚相手はあの笹倉グループの笹倉源蔵。正直信じられない話だと思う」


 目に生気がなく、ただ事実を読み上げているだけだった。令嬢になった嬉しさよりも、辛さが滲み出ている。


 笹倉グループ。古くから多くの事業に取り組んでいるグループだ。笹倉源蔵は、笹倉グループの幹部の会長にあたる人物。となれば、彼女は正真正銘の、財閥令嬢、ということになる。


 あの頃の美麗でなくなる理由に予想がつく。それにしても、財閥令嬢か。きっと今の僕は、冷静を装っているフリをているんだろう。溢れ出ている感情を無視しているだけで、いつか苦しくなることの先延ばしをしている。受け入れたくないことを受け入れないようにしている。


「ということは、笹倉グループとつながりができたから、転校の必要性が出てきた。そういうことでいいんだな」


「そう。いきなり話が決まって、普段の暮らしが奪われた。いきなり縁もゆかりもない有名私立中学に編入になったんだよ?? 先に先に進んでいく授業に追いつけるはずなんてなかった。そのうえ周りの子ともなんとなく馴染めなかった。母さんが、私の大切だったものを全て奪ってしまった結果だよ、これは」


 僕も美麗も、今は事実を列挙しているだけだ。頭の中にうまく言葉が入ってきていない。


 どうも、自分の知っている美麗は、どこにもいないらしい。目が輝いて、何事にも一生懸命で、優しさも活発さもある美麗が。本人には一度もいえなかったけど、僕はそんな美麗が好きだったと思ってしまったこともあるんだ。


「美麗、もっと話を聞かせて欲しい。思う存分、聞かせて欲しい」

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