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(私が、勇壱を好き……)

 真琴は、例の夏休み前の事件のことを思い出した。

 あの時、思いもよらない言葉を浴びせられてなぜあんなに傷ついたのか。

 なぜ、あんなに悲しい気持ちになったのか。

 あの事件は、勇壱を嫌いになるきっかけになったと思っていた。でも、本当は違う。嫌いになったと思い込むことで傷ついた自分の心を癒そうとしたのだ。

 二学期の始業式の日、勇壱の心が本当は真琴の方へ向いていると知った時、うれしかった。

 それを、勇壱より心理的優位に立てたことがそういう気持ちにさせたとばかり思っていたが、違う。ただ純粋に嬉しかった。

 勇壱が名前の知らない女子に告白されてるところを見てしまった時、イライラしていたことも。

 ひどいことを言って傷つけてしまったと後悔したことも。

 仲直りできて晴れやかな気分になれたことも。

 全て、全て一つの答えで説明できる。

 それは勇壱に対する恋心に他ならない。

 そうだ。いつも真琴の心を揺り動かしたのは勇壱しかいない。

(私は、勇壱が『好き』だったんだ……)

 真琴はやっと抱えていた違和感の正体に気づいた。

 その時、不意に思い出した。

 いや、正確には思い出したとはいえないのかもしれない。そんなことを言われた記憶なんてないのだから。

 だが、やはり感覚的には思い出したとしか表現できない。

 ある日どこかで誰かに言われた言葉。

 『――あなたはもっと自分の心と向き合って――』

 そんな大事なことに気づかず、他人の心にばかり囚われていた。

 心のコエが聞こえたから、人の心なんて何でもわかると思っていた。

 自分の能力を過信し、驕っていたのだ。

 自分の心にさえ向き合えず、わかっていなかったのに。

 しかし、やっと自分の心と正面から向き合うことのできた真琴には、もう頭痛はなくなっていた。

 そう、頭痛の原因は美希ではなかったのだ。

 それは、どんなに考えてもわからなかった違和感の正体――自分の心のコエを無意識の内に聞こうとしていたからだった。

 絶対に聞こえるはずのないコエを――。


 向かい合う心、ぶつかり合う思い。それは決してきれい事だけではないけど、とても大切なことだと美希に教えられた。

 心のコエを聞くよりもずっと。

 美希にはずいぶんいろいろ言われたけど、本音を聞かせてくれたことの方がうれしかった。

 これで絶交なんて、やっぱりしたくなかった。

 今なら、きっと前よりももっと深く付き合えるのに。

(でも、無理だろうな……)

 勇壱は一人しかいない。

 自分の想いに気づいた今、それを封印して誰かに譲るなんてもうできない。

 たとえそれが、大切な友人から幸せを奪うことになったとしても。

 幸せを分かち合うというのは難しい。

 こと恋愛に関しては。

 確かに薫の言ったとおりだ。美希と仲良くしたければ波風を立てるべきじゃなかったのかもしれない。

(でも、後悔はしていないけど……)


 ――もう、迷うことはない。

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