サルタリスの小鳥たち
オノイチカ
序章
少女は血に濡れていた。
森の片隅、朽ちかけた落ち葉の上に、一滴、また一滴と垂れているのは、まだあたたかな少女の血だった。血は、少女のまろやかな首すじから次々とあふれ、かぼそい鎖骨を流れ、白い服を赤く汚しながら、体の輪郭をつたい、つまさきをうるませて、
「ねぇ」
少女がつぶやいて、濡れた琥珀の瞳を
人と同じように二本の足で立つその生き物は、しかし異形の名にふさわしく、全身黒く硬い毛で覆われていた。人よりもひとまわり大きな魔物が、喉の奥で岩を転がすように
「お願い……もうこれ以上、苦しめないで」
少女の言葉が弱々しい吐息にかすれる。
鋭いまなざしを受けて、少女は唇で弧を
風が雲を払い、ひときわ明るい月光が、地上のありとあらゆるものの輪郭を
「わたしを──たべて」
魔物が雄叫びを上げた。
少女の肩に牙をめり込ませた魔物が、
〇
「いたぞ、そっちだ! 矢を射れ!」
「いや、深追いしなくていい……我々だけでは無理だ」
夜更けの森に、男たちの声が行き交っている。彼らは炎を上げる松明と、粗末な武器を
木々を揺らす魔物の足音が、徐々に遠のいていく。やがて森に静寂が戻り、
四方に散っていた村人たちは、自然と長老のもとに
村人らの輪の中心で、
「こりゃあひどい」
「助かるか……?」
布がたちまち赤黒くなるさまを見た男たちが、口々にぼそぼそとつぶやいた。
長老は少女を
「とにかく、この子を神父さまのところへ」
はっとした村人らは、長老の言葉にうなずいた。
松明の火が連なり、黒煙がうしろへたなびいていく。隊列のなかほどで、前後を男たちに守られた長老は、少女をかかえて歩き続けた。
ふと彼は、落ち
「この子ならあるいは……
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