第1話 異世界転生を夢見る男の末路。

 ※本文読み終わったら後書きまで読んで判断をお願いします。



 「てめぇ、信号の色が分からねぇのかーっボケェーーーーーー!」

 トラックの運転手からの怒号を浴びせられる。


 この国の法律では、本来その場に居てはならない歩行者が車道に居ても轢いた車側が完全悪とされてしまう。

 本来【どっちも悪い】のはずなのに。

 トラックの運転手の怒りも当然だ。

 赤信号なのにわざわざ歩道から歩行者が出てくれば、運転手側からしてみればふざけるなだ。


 赤、黄色は止まれ、青は進んでも良いであるが……

 歩道の信号の赤は止まれ、だ。

 渡ってはいけないのである。


 青点滅にしても【急げ】ではなく、横断歩道上にいる歩行者は速やかに前方か後方の近い歩道に進むか戻るかしなさいである。

 履き違えた歩行者がまだ歩道にいるにも関わらず、青点滅になったからといって横断歩道を渡り始めるのは頭がおかしいと言われても仕方がないのだ。

 

 横断歩道だから百歩譲っても、これがただの車道を渡ろうとした歩行者なら尚更である。


 そんなに轢き殺されたいのなら、轢き殺したくて仕方ない運転手に轢いてもらえば、お互いの利害関係も一致するから良いのだろうけど。

 停止線を気にしない運転手、信号を気にしない運転手、方向指示器を出さない運転手、携帯を弄りながら運転している運転手、酒を飲んだ後の運転手……

 轢き殺したくて仕方ない運転手はたくさんいる。

 こういった運転手に轢かれるなら本望だろう。


 話は逸れたが、彼もまたトラックに轢かれて異世界転生をしたくて仕方がないためについ車道に出てしまったのだが。


 彼はいつもすんでのところで轢かれる事はなかった。

 運転手の怒号にビビッて歩道に戻ってしまうのだ。

 抑々ラノベでトラックに轢かれて異世界へなんてのは、誰かを助けるために身代わりとなって轢かれた事によるものがほとんどだ。


 自殺……はまだしも、異世界に行きたいという理由で轢かれようとする者など皆無である。

 そんな理由で轢いてしまう者の身にもなって欲しい。


 異世界転生による轢いた側のその後の人生を描いた物語があるか?

 ゼロではないかもしれないが、ほぼゼロと言っても過言ではないはずだ。


 彼のこうした行動は一度や二度ではない、死して異世界転生への憧れは今に始まったことではない。

 もう50年以上も挑戦しては断念、挑戦しては断念を繰り返している。


 彼にもかつては青春を含め人並みの人生があった。

 甘い青春を過ごし、異性と付き合い、別れ、就職しそれなりに稼いで、結婚して子供を持って。

 何度も自殺まがいを繰り返す彼に嫌気が差し離婚までしている。

 

 当然といえば当然だ。

 一家の大黒柱が異世界転生をしたいからと自らトラックに飛び込むような事をしていたら、神経や頭を疑うレベルだ。

 保険金が下りれば良いという話ではない。

 周囲からの目というものもある。

 子供の将来もある。

 そんな理由で殺人者になってしまう相手の人生もある。


 一緒にいられるはずもない。


 彼は孤独のまま残りの人生を……

 異世界転生を夢見て今日も失敗する。


 そして大量のラノベと円盤に囲まれたアパートの一室で


 彼は孤独に息を引き取る。

 先日の誕生日を迎えたばかりのただの老衰である。


 「あぁ、異世界転生したかったなぁ。来世でワンチャンしたかったなぁ、ハーレムとか奴隷ハーレムとか幼馴染ハーレムとか……」

 「もふもふとかメイドさんとか……ざまぁとか追放とか、復讐とか成り上がりとかしてみたかったなぁ……GAKURI」




―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 ハートや星がつくような事があれば彼を望み通り異世界転生させようと思います。

 つかなければ……このままお陀仏、ちーんです。

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