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「ローベンダールとの取引の現状を報告しろ」
豪奢に飾り立てられた長テーブルの上座から、ゲンプシーは左右に居並ぶ面々に、常通りのだみ声で尋ねる。
広大なゲンプシー邸の中に用意された会議室に、真夜中に集まった部下たちの中で最初に答えたのは、やや耳障りな甲高い声を発する赤鼻の小男であった。
「
「確か今週末もシャトルが打ち上がる予定だったな」
「はい。次の便の積荷は
「人間がひとり……」
その人間の素性までは、ゲンプシーも尋ねなかった。今さら亡命を希望する者の正体など知る必要もない。たとえそれが、バララト本国からやってきたという捜査官の獲物だったとしても。
ゲンプシーが束の間思考を巡らせる間にも、部下たちからは次々と報告が上げられていく。
「最近は鉄鉱石の引き合いも強いですね」
「どうも向こうのバックに、ローベンダール政府か軍がついたんじゃないかって噂があります」
「ここのところローベンダールは官民挙げて、形振り構わず資源を掻き集めてるらしいですよ」
なおも続く報告に耳を傾けながら、ゲンプシーは太い指で口髭を撫でる。
バララト本国と断交状態に陥ったローベンダールが資源の獲得に窮するだろうことは、当初から予想がついていた。だからこそ彼は大金をかけて廃鉱跡にシャトル発着場まで築き、軌道エレベーター塔を経由しない、ローベンダールとの密貿易に手を染めたのだ。その読みは的中し、現在の彼の財を成す大きな足掛かりとなっている。
だがこれまで彼の密貿易を黙認してきたタヴァネズが、控えるよう暗に仄めかしてきた。それはゲンプシーの密貿易が明るみに出れば、この星の本部長たる彼女自身も責任を問われるからだろうが、いずれにせよ聞き流せる忠告では無い。
「捜査当局の動きはどうだ。最近は軍も出張ってるという噂もあるが」
ゲンプシーがそう口を開くと、その言葉に応じるかのように懸念の声が上がる。
「ローベンダールまでの各星系のゲート・ステーションには、しっかり金を握らせています。そこは問題ないのですが」
「そのゲート・ステーション付近では、仰る通り軍の巡回数が跳ね上がってますね。お陰で連中の目をかいくぐるのに、余計な手間を強いられてます」
「いよいよ開戦が近いんじゃないかとも聞きますし、ローベンダールとの取引も今後は考えた方がいいかもしれません」
賢しげに忠告を口にした赤鼻の小男を、ゲンプシーは無言で睨みつけた。その細い目から放たれる圧を感じて、赤鼻は出過ぎたことを悟り肩を縮める。
言われずともわかっていることだ。ローベンダールとの密貿易は、しばらく縮小した方が良い。その程度を見極めるために、現況を把握しようとしているのではないか。
「開戦間近となると、向こうの政府関係者との取引は控えるべきでしょうか」
「政府関係者?」
その報告の意味がすぐにはわかりかねて、ゲンプシーは発言した部下を鋭く見返した。すると相手は恐縮した体を取りながら、説明を補足する。
「はっきりとは明かされてはいませんが、おそらくローベンダールの諜報員です。バララトの宇宙港管制システムの
「管制システムの
「会長が覚えてらっしゃらないのもごもっともです。ネタ元はあの、
「ヤンコか。そういえばそんな話を持ち込んできてたな」
あの少年は見かけによらず手先が器用で、
「それが管制システムの
宇宙港の管制システムという厳重な機密は、ヤンコのような野良の現像技師がおいそれと入手出来るものではない。ゲンプシーが訝しがるのも無理もない話である。
「それが、サンプル代わりにと押しつけられた
「ふむ」
だとすれば話は変わってくる。その
しかもさらに部下の言うことには、相手はその
「今後予想される
「馬鹿を言え」
弱気な発言をする部下に、ゲンプシーは叱咤を浴びせた。
「ヤンコと連絡を取れ。さっさとその
低い声と共に下されたゲンプシーの指示に、慌てて背を伸ばした部下はただ頷くのみであった。
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