小さい道

青山えむ

第1話 都市伝説

 通学路にまつわる都市伝説がある。

「死にたい」と思って通学路を歩くと、小さい道が現れる。そこにほこらのようなものが見えた時に振り返るとあの世へ行けるという。

 しかしその時、誰にも見られてはいけない。


    〇


  死にたい。失恋した。告白してフラれた。相手はクラスメイト、嫌でも毎日顔を合わせる。ただでさえゆううつな月曜日に拍車がかかる。


 田中たなかくんは私に優しかった。それにイケメン。話す時はいつも笑顔だし、田中くんの好きなバンドのCDをよく貸してくれた。何より休み時間になると毎回私とお喋りをするために後ろを向いた。

 けれどもそれは勘違いだった。田中くんは単に休み時間、座る位置を変えたかっただけ。結果的に後ろの席の私と話しているだけだった。

 席替えが行われた場合、話す人物は変わっただろう。「私」じゃなくてもよかったのだ。


 ほら、今日は一度も後ろを振り返らない。田中くんは休み時間、席を立って友達のところへ行く。

 田中くんは朝から私と目を合わせない。けれども友達のところにいる田中くんからはチラチラと視線を感じる。もしかして私のことをネタにしているのかな……。つらい。噂になるかな。田中くんと仲良しの女子からいじめられるかもしれない。

 今日は頑張って学校に来たけれども、明日から来たくないな……。消えていなくなりたい。好きな人に全否定された私にこの先良いことなんてあるのだろうか。


 でも、どうやって死のう。自分で死ぬのは怖い……かといって誰かに殺されるのは嫌。自殺も他殺もありえない。こんな時は……都市伝説があった。

 通学路を通る時に「死にたい」って思うと道と祠が現れる、そこで振り返るとあの世へ行ける。そしてそれは誰にも見られてはいけない。

 私は土曜日に実行してみることにした。



 休日に学校の近くに来るなんて初めてだ。この高校は県内の公立校では中くらいのレベルになる。進学校でもなく問題児が集まるでもなく、おだやかに高校生活を送れるはずだった。

 いつもは生徒であふれている通学路なのに。夕方になると人通りがなくなる。私は試しに歩いてみた。

 何も起こらなかったので何往復かしてみた。そうだ、「死にたい」って思わないとだめなんだ。私は田中くんとのたのしい日々、告白した場面を思い出してみた。



 先週の金曜日、私は田中くんを階段近くに呼び出した。その階段付近はあまり人が通らないのでカップルが時々逢瀬おうせをしている場所だった。

 田中くんから緊張が伝わった、何が起こるかは気づいているだろう。何せこのイケメンだ。告白された経験はあるはず。

 そう思ったので私は思い切って自分の気持ちを言葉にした。田中くんは一瞬困った表情をしてすぐに「ごめんなさい」と言った。



 そうして今週に入ってからの田中くんの態度を思い出して、私は泣きそうになる。この一週間、田中くんは私と目を合わせることはなかった。

 自分は田中くんに好かれていると思っていた勘違いが恥ずかしさと後悔になる。哀しい。泣きたい。死にたい。

 涙ぐんで歩いていると、道が現れた。一瞬小さな祠みたいなものが目の端に見えた。これだと思い、私は振り返った。


―死んでみる?―


 誰? 声が聞こえた。けれども周りには誰もいない。きっと都市伝説の主の声だ。私はうなずく。

 すぐに目まいがした。世界が回る、立っていられない。私はその場にしゃがみ込んだ。目をつぶっても世界が回っていた。頭の中がぐるぐると渦を巻いているようだった。そのまま意識が落ちていった。

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