第67話 - 王の領域 2

街を一つ壊滅させたがオーク達の増援はなかった

オークキングはそれほど兵を大事にしている訳ではないようだ


そもそも魔物は単体で凄まじい能力を持つものが多いため自分一人残れば後はなんとかなると思っている輩が多い

オークキングも同じなんだろうか、これなら街の攻略に集中できるので都合はいい


街に女は10人ほどいた

こいつらも定期的に決戦などして上位種へ成長を促していた可能性が高い

軍団あたりの数が少ない事と約一年近くクーベルシュタイルを経営していたがスウォームを見ていないからだ


だがどれくらい放置されたのだろうか?キングが育つほどとは

今や大陸は人間の方が数が少ない

地図は残っているが荒れ果て、未開となった土地にはこういったものがもっといるんだろうな


まずは女たちをクーベルシュタイルへ送り返そう

装備を整えてまた来ることにする


◆ ◆ ◆


5日後、再度侵攻のために二つ目の街を攻略した


今度はクレマリーたちにジェネラルの相手を任せたがなんとか倒してきたようだ

馬車でゾフィと待っているとクレマリーたちが戻ってくる


「どうだった?」

「み、水を飲ませてください」


クレマリーたちは呪鎧を脱いで馬車に積んできた水にかぶりつくように飲み、俺の側へやってきた


「ふぅ…いい運動になりました」

「もう呪鎧4体で街ひとつ潰せるな」

「さすがにジェネラルは厳しかったですね、鎧が傷ついてしまいました」


呪鎧に目をやると1体大きな刃物傷がある

穴はあいているが元々横幅もそれなりにあるため中の人間は無傷だった


「これは盾持ちが一人はいたほうがいいかもしれないな」

「そうですね、結局ジェネラルは私が相手をしました。部下たちはもう少し経験が必要になりそうです」


それでも大きな戦果だ

呪鎧4体で100体のオークとジェネラルを討伐できるんだから

しかしそうなると確実に王に目を付けられるな

ヘルゼを人質にとられているので下手に断れない

戦争があれば駆り出される事さえあるかもしれない

悩みの種が増えてしまった


悩んでいると心配そうにゾフィが顔を覗き込んでくる


「どうしたの?何か悩み事?」

「いや、順調なのはいいが王が欲しがるだろうな、呪鎧」

「あー、そうだね」


クレマリーは首を振る


「致し方ないでしょう、ヘルゼ様も人質に取られておりますし。領民の方が王都より軍事力があるという状況になれば確実に人質を利用してきます。まだお二人にお世継ぎがいないことが不幸中の幸いでしたね。本来ならご子息が人質になります」


ゾフィは暗い顔をする


「それはやだ…エーサー…」

「それは俺も避けたいな、クレマリーが言っていることは俺たちに子が産まれたら人質に差し出さねばならんと言う事か」


クレマリーは頷いた


「やれやれ…それは…ダメだ。何としても避けたい、ここを攻略して領地を手に入れたら本格的に対策を考えなきゃいけないな」

「独立する事になりますね、呪鎧を増やして軍事力を行使する準備をしなければいけません」


エーサーは大きなため息をついた

首を振り空を見上げる


「女たちを守りたかったはずなのに望まぬ戦いをさせる事になるとは…どうしてこううまく行かないんだ…俺とゾフィが我慢すれば済む事だろうか…」


クレマリーは首を振った


「ダメですよ、いずれ火種になるでしょう。王はいくらでも我々を利用します、ヘルゼ様とご子息の無事を守るために我々は帝国に利用され続ける事になるでしょう」

「どのみち戦う事は避けられないか」

「はい、平和は勝ち取るものですので」


独立して軍事力を盾に他国と渡り合わなければならないのか

戦う者たちは穢れた女たちだ

どうしたらいい


クレマリーの部下たちが口を開いた


「エーサー様、我々をもっと頼ってください。私たちはエーサー様のために、街のために戦う事を恐れません。喜んでこの命を捧げます」

「そうですとも、私たちはエーサー様がいなければいずれ自分で命を捨てていた身。この恩を返す機会があるなら喜んで命を捧げます」


エーサーは首を振る


「まったく…俺はお前たちが傷つかない土地を得るために戦っているんだ。それでは俺の目的と矛盾するだろう」

「既に頂いております。ですが土地は守らねばなりません、私たちは戦う事を恐れていません!」


そうじゃないと言っている

だがもう選択する余地はない

土地を持った時点で国の戦争に参加する義務がある

国の土地を預かり国の庇護下にあるのだから、どの王のために力を振るうか

違いはそれだけだ

俺たちだけが戦わずにいる事はできない

早かれ遅かれ戦う事は避けられなかったのかもしれない


ゾフィが立ち上がる


「エーサー!立ち上がれ、救うと決めたんだろう?そのためにここまで来たんだろう?あたしは…いや、あたしたちはみんなエーサーに惚れてるんだ。役に立たせろ」


クレマリーも立ち上がる

俺に手を差し伸べながら


「私もこの命をエーサー様に預けております、戦わせてください」


俺は小さく頷きながら手を取った

立ち上がり、空を見る


「わかった。やろう、俺たちの国を作る」


大変な事業になったものだ

最初は俺のわがままだった

救われない女たちを殺すのに疲れ、嫌になったから土地を持っただけだ

課題を解決しているうちに国を作ることになるとは

俺が始めたわがままだ、最後まで責任を持とう

今後俺のために死ぬものも出る

覚悟をしなければいけないな

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