第14話 - オークスウォーム

義手に自分の血を馴染ませ、動かしてみた


義手に施した呪印がぼんやりと赤く光っているように見える

元の腕と変わらないくらいよく動き、力もより強くなった


ただ、細かく精巧な動きは難しく指の感覚が無いため力加減はできないと言ったほうが正しいだろう


ともあれこれで右腕でも斧が持てる。投擲などの精密な調整を要するものは無理だろうが十分に戦えるだろう、オークの言葉を学んだことがこんなことに活きてくるとは思いもしなかった


義手をより堅く、軽い素材にすることができたらもっと戦闘の役に立てそうだ

明日はまたオーク狩りに行こう


◆ ◆ ◆


翌日


今朝は外が騒がしい、外で大きな声をあげて叫ぶ者たちが大勢いる

バタバタと音がするとクベアとリンネが部屋に飛び込んできた


「エーサーさん、オークスウォームが発生してるみたいです。冒険者ギルドがオーク討伐に賞金を懸けて参加を呼び掛けて冒険者を集めてるんです」


オークを殺すのに理由はいらない。全て殺してやる


「行こう、装備を着けるのを手伝ってくれ」


クベアとリンネに装着を手伝ってもらい、冒険者ギルドへ向かうとベロニカが説明してくれた


「エーサー様、オークスウォームです。ギルドは一体につき銀貨200枚を賞金にかけました。街を…護って頂けませんか」

「どこにいる」

「南門です、まだオーク達は到着していませんが目測で50ほどだそうです。冒険者たちは今集結中ですが今は数が少なく、30人ほどの戦力になる見込みです」

「わかった、すぐに向かう」


◆ ◆ ◆


南門に向かうと遠目にオーク達が行進してくるのが解る

門と外壁の周りには馬防柵が準備してあり冒険者たちはまだ20人ほどしか集まっていなかった


冒険者ギルドマスターのバルトも参加しており俺を見つけると寄ってくる


「おう、新人。緊張してないか?腕は新しいのが生えたみたいだな」

腕は生えないだろう、面白いやつだ

バルトはいかにも強力そうな幅広の両手剣を担いでいた

広い場所ならあれほど重い武器は効果が大きいだろうな

バルトのジョークは緊張をほぐすためだろうか?俺も乗ってやろう


「オークを殺してたら生えてきたんだ。次は牙が生えるかもしれん」


バルトは目を丸くして驚いたあと大笑いし始めた


「ハッハッハ!肝が座ってるな。死ぬんじゃねーぞ」


そういうとバルトは集まった冒険者たち一人一人に声をかけていた

マスターをやってるだけあるようだ、慕う人間も多そうな気がする


オーク達が陣形を整え始め

ミリアの防衛は冒険者25人というところでオーク達が突撃を開始した

すさまじい勢いで迫ってくるオーク達を馬防柵で次々と仕留めていく

20体ほど仕留めたところで混戦になった


みんな奮闘しているが奥にはシャーマンとバーサーカーが控えている

シャーマンはともかくバーサーカーはまずい

なんとか先に倒してしまいたいところだ


何匹かなだれ込んでくるオークを仕留め義手の調子を確かめる

元の腕よりよっぽど力が強く素手でもオークが一撃で殺せるのは嬉しい誤算だった

バーサーカーはこの混戦で戦うとおそらく死人を覚悟しなければならないだろう

狂戦士の呪印の効果も解った事だし試運転をしてみる事にした


迫ってくるオークの首を跳ね、首から滴る血を浴びるように呑んだ

口からこぼれた血は首をつたって狂戦士の呪印に流れ込む


呪印が火を吹くように熱くなっていく


体が大きくなるような錯覚を覚え、筋肉が膨張していく

フルーフの血を飲んだ時ほどの飢餓感はなかったが溢れ出る殺意は正気を保つのが難しい

殺意を振りほどくように前へ前へと足を進め斧を振り回す


オーク達の体がバターのように柔らかく感じる

気が付けば残ったオーク達の半数を一人で片付けていた

返り血で真っ赤に染まり、飲む血には困らない


スウォームの集団を抜け、シャーマンの元へ一気に駆け寄っていく

バーサーカーが間に割って入るが初撃を躱してさらにシャーマンへの距離を縮める

及び腰になったシャーマンの武器ごと叩き折って首を飛ばすとバーサーカーへ一直線に走り込んだ


「《貴様!本当に人間か!》」

「《グァラル!血を寄こせ!!》」

「《貴様…呪われているな。望むところだ!》」


バーサーカーは両腕を振り上げ武器を振り下ろす

皮一枚で躱し、両腕を交差させ、思い切り振りぬくとバーサーカーの首は飛んだ


崩れ落ちるバーサーカーの首から血が勢いよく吹き出し、エーサーの体をより赤く染めた

バーサーカーの血を飲むと殺意が薄くなっていくのが解る

どうやら一定量飲むと飢えは収まるようだ


残ったオーク達を背中から襲撃し、大した負傷者もなくスウォームは終わった

返り血で染まった俺に近づく者はいなかった

バルトでさえ薄い笑いを浮かべながら後ずさっていた


呪印はというとフルーフの時ほど狂ったような飢餓感、怒りはなかった

オークどもの血なら乱用しなければいざというときに使えそうな気がした

あまり乱用するとオークになってしまいそうな気がしたのでなるだけ使いたくないという気持ちもある

いざというときの切り札として使うくらいでいいだろう


後日、俺は街の人たちに狂戦士と呼ばれ冒険者ギルドでは特に畏怖の対象となった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る