わたしを愛した偶然と必然

未央

第1話 自信家

「何で連絡くれないの?」

「24日時間作れない?」

「仕事終わったら飲みに行けませんか?」


そもそも、何でこんなことになっちまったんだろう。

最初は、こっちが勇気出して頭下げて言ったんだ。「俺とどう?」

それに対しての答えは、薄ら笑いを浮かべながらのはぐらかし。おまけに、少し黙ったあと「そういえば洋子ちゃんの気持ちには気付いているの?」と、句読点というものを知らないかのように、ひと息もつかずに早口で言うなんて。すっかり肩透かしを食らった俺は、あいつの思わせぶりだった今までの態度を思い出しながら呆然とする。

あいつをひと目みたときに「!!」と衝撃だった。何て可愛いんだ。何て「マブいんだ」。顔の小ささ、大きな瞳、すらりと伸びるやや細めの手足の長さに吃驚するしかなかった。まるで人形みたいだ。

ふたりで度々一緒に飲みにも行ったし、「メシを食いに」も行った。もちろんあいつの“友達”の舞彩マイを含めて三人で飲みにも行ったし、付き合うには至らなかったが舞彩の女友達を紹介してもらったこともある。ご丁寧に、舞彩があいつに「ヒロっぺと飲みに行ったよ。友達紹介した。」と報告していたことも知らずに。報告を聞いたあいつは遠回しに探りを入れてきたけれど、まだあいつにすっかり心奪われていた俺は、探りを入れられている事実にも気付かず、あわよくば色んな女と付き合えるかも知れないと妄想していた。二股、三股も夢じゃない。人生最大のモテ期到来だ、このチャンスを逃すものか。26歳、付き合っていた女と別れて3年、まだまだ遊んでもいいだろう。

根拠のない自信にあふれていた俺、20年前の俺。この時点では、俺のふわふわと浮ついた態度があんなことを引き起こすとは、これっぽっちも想像だにしていなかった。

これっぽっちも、だ。

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