二月の少女が咲くまでに

笹百合ねね

第1章 雪を待つ

第1章 雪を待つ①

「人形になりたいの」

 と、その少女は言った。

「どうして?」

 もうひとりの少女が訊ねると、ひとりめの少女はやわらかく微笑みながら、こう答えた。


 ――だって人形は、愛されるしかないから。


 ***


 丁度レッスンが終わって、教室から帰ろうとしていたときのことだった。

 学校があるところからはいくつも離れた駅が最寄りのはずなのに、見知った曇天のような鈍色のセーラー服を身に纏った少女が目の前に現れて、わたしの行手を遮った。

「ねえ、あなた、黒須愛菜くろすまなさんでしょう」

 動悸がした。

 学校のひとには、ばれていないはずだったのに。せめて、偶然だと思いたかった。けれど、彼女は「知って」いた。

「わたし、七組の柊木ひいらぎまりあ。ねえ、わたしのことも、人形にしてくれない?」

 それが、柊木まりあとの出会い。十一月の、曇りの日のことだった。








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