第104話 高所恐怖症
遊園地に入園してから最初に乗車したジェットコースターでは乗車直前まで結衣と水菜のどちらと並んで乗車するべきかを考えていたが、結局は水菜が俺の腕をがっしりと掴み半ば無理矢理水菜の横に座らされた。
無理矢理隣に座らされるくらいなので今日は1日ジェットコースターに乗車する時は水菜の横に座る事になるのだろうと考えていた。
しかし、次のジェットコースターで俺の隣に座っているのは水菜ではなく結衣だった。何で俺、今度は結衣の隣に座ってんの?
「ううぅぅ……。1個目のジェットコースターでなんとなく慣れたような気はしたけどやっぱり出発直前は緊張するしお腹が痛いね……」
結衣はジェットコースターへの恐怖から俺の横で小刻みに震えている。
仮に結衣が俺の彼女であるならばそっと手を握ってやることもできただろうが、今の俺にはそんな事をする資格も勇気もない。
はぁ……。俺も腹が痛いよ……。
何で次は水菜の隣じゃなくて元カノである結衣の隣に座らないといけないんだよ……。
結衣が俺の横に座る事自体にはあまり問題もないし抵抗もない。元カノとは言っても別れてから関係が切れているという訳でもなければ会話がしづらい訳でもない。
問題なのは俺と結衣が横並びに並んでいる後ろの席に水菜が座っている事だ。
俺が今後ろを向いたら水菜がどんな表情をしているのか、大体想像はつくが恐る恐る後ろを振り向くと、俺たちの後ろの席では水菜がニコッとこちらに微笑みかけて来ている。
笑っているのにとてつもないプレッシャーを感じるのは一体なぜだろうか。
ジェットコースターが苦手ではない俺からしてみればジェットコースターよりも今後ろでニコっと微笑んでいる水菜の方がよっぽど怖い。
そうこうしているうちにジェットコースターは発進し、みるみるうちに上へと登っていく。
「え、ちょっと史桜くん。このジェットコースター高すぎない?」
「そ、そうだな。なんかもうそろそろ観覧車の高さを越えそうな気が……」
外から見ていてもかなりの高さがある事は分かっていたが、実際に乗ってみると観覧車の高さを超えてなお、ジェットコースターは更に上へと登っていく。
ジェットコースターが怖くないと言い張っていた水菜の焦る声も後方から聞こえてくる。
このジェットコースターはかなりやばい。結衣は大丈夫か?
そう思って結衣の顔を確認しようとした瞬間、俺の手を結衣の手が掴んだ。
「……え?」
結衣の顔を見ようとしていた俺の視線は思わず俺の手を掴んだ結衣の手の方に向けられる。
「大丈夫だよ。後ろの席から私たちが手を掴んでるところは見えないし、水菜ちゃんに見れられる心配はないから」
なぜ結衣はこんな時に俺の手を? まさか俺のことが……。
いや、単にジェットコースターが怖いくて俺の手を握って来ただけか。
「そ、それは別に心配してないけど……」
「ならよかった」
そう言って結衣の顔を見ると、俺の方を見て微笑みながら結衣は涙を流していた。
……え? 怖くて泣いてんのか?
結衣が泣いている理由を考える暇もなく、俺たちは猛スピードで落下していった。
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